映画スクエア
2023年11月3日より劇場公開される、「ふたりの人魚」「天安門、恋人たち」「スプリング・フィーバー」などのロウ・イエ監督最新作「サタデー・フィクション」から、本編の冒頭映像が公開された。
映像は、実生活では恋人同士である舞台演出家のタン・ナーと人気女優ユー・ジン(コン・リー)が、舞台「サタデー・フィクション」のリハーサルをする場面から始まる。演出とともに俳優も務めるタン・ナーが酒場に入ると、テーブル席で一人でタバコを吸いながら静かにたたずむ、ユー・ジンが演じる主役の秋蘭を見つけ、声をかける。そこにサングラスに葉巻をくわえた怪しい男性が登場するも、タン・ナーから「もう一回やりなおし」の声がかかり、リハーサルは中断される。
ロウ・イエ監督作品ではおなじみの手持ちカメラで演者たちの様子を追い、さらに舞台の中で生演奏されているジャズも相まって、臨場感のある世界が映し出されている。リハーサルされている舞台は、ロウ・イエ監督が「上海に関する小説のうちで、好きな作品の一つ」と語る、横光利一の「上海」を原作としており、ユー・ジンとタン・ナーは互いに惹かれあう中国共産党の女性闘士と日本人男性の役を演じている。
一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■小谷賢 (日本大学危機管理学部教授)
本映画の舞台は、1941年12月の上海だ。この時代の上海は既に日本軍の占領下にあったが、フランス租界と各国の共同租界が治外法権を維持したままの「孤島」として存在しており、物語はこれら租界内で進展していく。当時の上海は日中のみならず欧米各国のスパイが暗躍する都市でもあり、本作のテーマの一つがまさにこのスパイ戦だ。そのためここでは劇中に登場するスパイたちについて押さえておきたい。
本作は複雑な様相を呈しているが、スパイ映画としてはかなり上質で、それぞれの関係を知っておくとより楽しめるのではないだろうか。
■曽我部恵一 (ミュージシャン)
ロウ・イエの映画の中では、いつも雨が降っている気がするのだ。
あるいはそれは、年中心に雨を降らすぼくの思い込みだろうか。
しかし、この映画も、やっぱりほら。
365日雨が降り続くこの星で、ぼくらは恋をし、愛を知る。
モノクロームのフィルムが、体温を持ってしまっている。
■鹿子 (「満州アヘンスクワッド」漫画家)
魔都上海。
この時代は煌びやかな街、人々の生活が機能しているその一方、すぐ傍で各国の謀略と世界情勢が大きくうねっている。租界における多様な人種も相まって集約されたまさにカオスな舞台。
ちょうど満州アヘンスクワッドも上海編佳境であるが、実際こんなヒリついた空気だったのだろうと思う。
白黒の画面も当時を感じるのにいい雰囲気だった。
大衆演劇のスター女優ユー・ジンは、周りの様々な思惑に利用されながらも最後まで自分自身を貫き美しかった。
見応えのある作品でした。
■樋口裕子 (翻訳家)
時代の渦に飲み込まれてなすすべもなく悲劇の淵に堕ちていく、
そういう人間を見つめて撮ってきたロウ・イエにすれば、
横光利一と想いは重なるような気がする。
■森直人 (映画評論家)
ロウ・イエが描き出す「個と社会」のメカニズムは他の現代劇と同様だ。『天安門、恋人たち』(06)の北京から始まるクロニクルや、『スプリング・フィーバー』(08)や『ブラインド・マッサージ』(14)の南京、『二重生活』(12)の武漢、『シャドウプレイ』(18)の広州……シンボリックな都市に住む個人と、ひりひりした政治や制度との軋轢。それを長い歴史的射程で描く硬質な姿勢は一貫しているのである。
■門馬司 (「満州アヘンスクワッド」原作者)
1941年の上海、混沌としたエネルギーに包まれる空気感をこの映画では存分に味わえます。まるで自分がこの地にいるようなリアリティ!風景の一つ一つが没入感に溢れていて、何を信じ、誰を愛するかという選択の重要さを教えてくれる。そして激動のクライマックス。血と涙で塗れる舞台の観客ではなく、キャストとしてそこにいたような感覚でした。素晴らしい作品に感謝を。
■横幕智裕 (脚本家・漫画原作者)
太平洋戦争開戦直前、激動の時代の愛と謀略。モノクロで描かれる混沌とした魔都上海の世界観に強くつかまれ、引き込まれた。ひたすら夜を突き進んでいる感覚だ。銃を撃つコン・リーのなんと美しいことか。いつの時代も人は国家に翻弄され、呑み込まれていく。今はどうなのだろう。そう痛感した。
■劉文兵 (大阪大学人文学研究科准教授)
国際映画祭のレッドカーペットでの華やかな立ち居振る舞いや、意思の強い鋭い眼光を特徴づける近年の出演作と一線を画し、『サタデー・フィクション』のコン・リーは、ナチュラルで深みのある演技を見せている。
【作品情報】
サタデー・フィクション
2023年11月3日(金・祝)よりヒーマントラスト有楽町、新宿武蔵野館、シネリーブル・池袋、アップリンク吉祥寺にて全国ロードショー
配給:アップリンク
©YINGFILMS