医療従事者による戦争犯罪への加担 現在の医療現場が抱える問題に迫る 「医の倫理と戦争」公開決定

映画スクエア

 医療従事者による戦争犯罪への加担という負の歴史を追いつつ、現在の医療現場が抱える問題に迫るドキュメンタリー映画「医の倫理と戦争」が、2025年11月22日より劇場公開されることが決まった。

 現代の日本の医療現場が抱えるさまざまな問題の根底には、第二次世界大戦における医療従事者による戦争犯罪の加担と、その隠蔽という事実があるという。石井四郎が率いた731部隊に所属した医師たちは、人体実験で得た”知見”を自らの功績に変え、戦後日本の医学界の中心に上り詰めた。そうした負の歴史に向き合い、「医の倫理」を掲げて、戦争反対の声を上げる医療従事者がいる。「医の倫理と戦争」は、731部隊の真実を追いながら、現在の医療現場が抱えるさまざまな問題に取り組む医療関係者の今を取材。戦後80年の今も、戦争と地続きの私たちの日常に一石を投じるドキュメンタリーとなっている。

 本作を企画した伊藤真美と、山本草介監督のコメントも公開された。コメントは以下の通り。

■伊藤真美(安全保障関連法に反対する医療介護・福祉関係者の会/本作企画)
今もなお、残虐な形で多くの市民が殺されているのにもかかわらず、現代の世界はそれを止めることができないという事実。
2013年に秘密保護法、2014年に防衛装備移転三原則、2015年に安全保障関連法、2017年に共謀罪の創設、そして沖縄で、日本の各地で、米軍だけでなく自衛隊のミサイル基地が、弾薬庫が、着々と新たに作られている。多くの人々が、戦争に備える必要性を受け入れ始めているようにもみえる。
戦争に備えることは、国策に動員され戦争に加担していく過程であったことを歴史から学ばなければならない。とりわけ医療者は戦争に真っ先に動員される。ナチスドイツに匹敵する日本の医療者による戦争犯罪の事実は、医療者さえも詳らかには知っていない。医療者が戦争に加担した歴史が、戦後アメリカとの密約のもと覆い隠されたまま戦後の医療界は形作られてきたからだ。
戦後80年の節目に、映画でインタビューに応じてくれた各人からの共通のメッセージ、「戦争に備えるのではなく、医療者は戦争を起こさないことに全力をあげるべき」を届けたい。
「倫理は法よりも高い基準の行為を要求し、ときには、医師に非倫理的行為を求める法には従わないことを要求します」。これは世界医師会の『倫理マニュアル』にある一文。「戦争を起こさないこと」はもちろん、「悪法には従わないこと」、それは容易なことではない。それでもなお、医の倫理にこそ従うべきであることが、真に医療者に問われている。

■山本草介(監督)
「医」と「戦争」。これほどかけ離れたものはないだろう。命を救うのが「医」であり、命を奪うのが「戦争」だからだ。僕はこの映画を撮影するまで、当然「医」に携わるものは「戦争」に抗い、否定するものだと思っていた。だが、現実はそうではなかった。過去に医療者は実験と称した大量殺人さえし、現在も、反戦運動に関わるものは少数であり、職場では異端とされる。なぜなのだろう?医療者がどれだけ努力を重ねて一人の命を繋いでも、一生かけて新しい治療法を開発しても、戦争が起こればすべてが無に帰すのに。僕は退院する元患者を見送る医療者の笑顔を知っている。それが心から生まれたものであると知っている。力及ばなかった時の苦悩も見ている。
しかし、だからこそ、この映画を世に出す必要があると思った。彼らに見てもらう必要があると思った。そして私たちの命への「倫理」そのものが脆く、いとも簡単に失われることを、僕はこの映画を作り、知った。

【作品情報】
医の倫理と戦争
2025年11月22日(土)よりユーロスペースほか全国順次公開
配給:シグロ
©2025 Siglo

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