映画スクエア
誰もが知るホラーの帝王、スティーヴン・キング。彼の短編『猿とシンバル』をジェームズ・ワンがプロデュース、『ロングレッグス』(2023 )のオズグッド・パーキンスが脚本と監督を担当した新作ホラーが日本上陸した。今年の2月に公開されたアメリカでは初登場2位のスマッシュヒット。全米では3970万ドル、海外では2910万ドルという、予算1000万ドルという規模から考えれば、特大ホームランとも言うべき成績を収めている。
物語は、至ってシンプル。父親が失踪してしまい、母と共に残されたハルとビルのシェルボーン兄弟。双子のふたりだが、弟のハルは、兄のビルから何かと嫌がらせを受けており、兄弟の関係は良好とは言えなかった。ある日、二人は父の残した物の中からゼンマイ仕掛けの猿の人形を見つけるが、その人形はゼンマイを回し、太鼓を叩き始めると誰かが死んでしまうという恐ろしい呪いの人形だったというもの。兄弟の周辺で次々と人が亡くなっていく中、ハルは生き延びることができるのか?
大人になった主人公ハルを演じるのはテオ・ジェームズ。『ダイバージェント』シリーズ(2014 ~2016 )で、ヒロインを助けるカッコイイ役が印象に残るが、本作ではそんなタフな役とは程遠く、メガネをかけ、息子との距離感を常に不安に感じる気弱な男を演じている。一方、少年時代のハルとビルを演じたクリスチャン・コンヴェリーは『コカイン・ベア』(2022)や『ヴェノム』(2018 )に出演し、今後はNetflixで配信されるギレルモ・デル・トロ監督の最新作『フランケンシュタイン』(2025)でオスカー・アイザックの子ども時代を演じるというから楽しみだ。他には『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)のイライジャ・ウッドもゲスト出演している。
本作の魅力と言えば、何と言っても『ファイナル・デスティネーション』シリーズ(2000~)でおなじみのピタゴラスイッチ方式で、人が死んでいく描写だ。冒頭、父親が質屋に猿の人形を売りにやってくる場面では、ネズミがひもを食いちぎると、固定されていた斧が倒れ、側にあった水中銃が発射。勢いよく飛び出た銛が店主を直撃する。不謹慎極まりないと、良識派から怒られそうな展開だが、登場人物に下手に感情移入させることなく、殺され要員としてキャラクターが登場するので、ホラーファンなら笑わずにいられないだろう。
監督のオズグッド・パーキンスは、今年、日本でも公開された『ロングレッグス』で注目されたホラー映画期待の星。何を隠そう『サイコ』(1960)で有名なアンソニー・パーキンスの息子である。そんな彼、子ども時代、家族で見に行った『グレムリン』(1984)に衝撃を受け、今まで見た中で最高の映画だと思ったのに、彼の母親がまあまあと思ったことに激怒したんだとか。テオ・ジェームズは「彼(オズグッド)はいつも(本作が)『グレムリン』に『ヘレディタリー/継承』(2018)のスパイスを足したような作品だと言うんだ」と語っており、監督の『グレムリン』への強い思いが強く伝わってくる。『ロングレッグス』では不気味な空気感が見事に表現されていたが、本作では更にユーモアも加わり、その勢いが増しているのが感じ取れるはずだ。
クライマックスは想像以上のスケール感を見せ、個人的にはM・ナイト・シャマランの『ノック 終末の訪問者』(2023)を思い起こした。白馬に乗った謎の人物も現れ、その解釈にも様々な受け止め方ができるだろう。是非、友人を誘って、意見交換をしてもらいたい作品だ。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
THE MONKEY/ザ・モンキー
2025年9月19日(金)より新宿ピカデリー他全国ロードショー
配給:KADOKAWA
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