リハーサルの裏にある監督のたくらみ 「ラストタンゴ・イン・パリ」の裏側 「タンゴの後で」本編映像

映画スクエア

 2025年9月5日より劇場公開される、第77回カンヌ国際映画祭に正式出品された、「ラストタンゴ・イン・パリ」の撮影で一生消えないトラウマを負った女優マリア・シュナイダーの人生を描く映画「タンゴの後で」から、「ラストタンゴ・イン・パリ」で最も問題となったシーンのリハーサルの様子を描いた、本編映像が公開された。

 撮影の準備で忙しく動くスタッフたち、ストレッチをするマーロン・ブランド(マット・ディロン)、カメラ横で「本番と同じように緊張感を出すように」と指示をするベルトルッチ監督が映し出される。「アクション」の合図で軽やかに部屋に入ってくるジャンヌ役のマリア・シュナイダー(アナマリア・ヴァルトロメイ)、は脚本通りにセリフを発し、相手役のブランドからの挑発的な言葉やセクシャルな接触を力強くはねのけ、部屋を出ていく。「完璧だ!照明を変えて撮ろう」と監督の満足げな言葉とは裏腹に、その表情にはたくらみの黒い影が浮かび上がっている。

 危険性はないシーンのようだが、この映像に続いて描かれる本番のシーンでは、マリアの不意を突くようにブランドは力づくで彼女を押し倒し、驚きと恐怖で泣き叫ぶマリアを誰一人意に介すことなく撮影が続行されていく。本作のジェシカ・パルー監督は、「マリアの視点だけに焦点を当て、彼女が経験したことを観客に感じてもらうことを重視した」と語るように、マリアが現場で受けた屈辱と冷淡な視線が伝わる映像となっている。

リハーサルの裏にある監督のたくらみ 「ラストタンゴ・イン・パリ」の裏側 「タンゴの後で」本編映像

 「タンゴの後で」は、気鋭の若手監督ベルナルド・ベルトルッチの「ラストタンゴ・イン・パリ」の陰にあった、ある女性の怒りと葛藤を描く。一夜にしてトップスターに駆け上がった19歳のマリア・シュナイダーのだったが、48歳のマーロン・ブランドとの過激な性描写シーンの撮影は彼女に苛烈なトラウマを与え、その後の人生に大きな影を落していく。”70年代最大のスキャンダル”と言われた作品の舞台裏で何が起きていたのかを、映画の撮影現場での問題について声を上げた最初の女性の一人であるマリア・シュナイダーに焦点を当てて描く。

 監督はヴェネツィア映画祭での受賞経験もある新鋭のジェシカ・パルー。ベルナルド・ベルトルッチ監督作「ドリーマーズ」でインターンとして彼との仕事を経験した彼女は、マリアのいとこであるジャーナリストが記した「あなたの名はマリア・シュナイダー:「悲劇の女優」の素顔」と出会い、彼女の人生を映画化することを決意した。マリアを演じるのはヴェネツィア映画祭金獅子賞受賞作「あのこと」のアナマリア・ヴァルトロメイ。マーロン・ブランド役をマット・ディロンが演じている。

 一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

【コメント】

■夏木マリ
演技という名のもとに奪われた尊厳を、
今、マリアの視点で感じる揺さぶり...

■映画監督 本木克英
マリアが見たやり切れない闇が鮮やかに明かされ、胸に刺さる。彼女の怒りがどうか届いてほしいと、今こそ願う。

■作家 山崎ナオコーラ
マリアの痛みがひしひしと伝わってきた。
「誰もが尊厳を保って仕事に臨める世界に変えたい」
観終わった後、そう強く思った。

■ドキュメンタリー映画監督 坂上香
〈マリア〉は過去じゃない。消費され、断罪され続ける〈マリア〉たち。マーロン・ブランドの「たかが映画だ」に返すよ、「クソくらえ!」

■映画監督 深田晃司
まず映画に携わるすべての人が見ておくべき作品だと思った。撮影中の俳優に酷い暴力がなされるシーン、カメラは暴力とともに言葉なく見守るスタッフたちを映し出す。まるで、暴力の共犯者であるかのように。そこには助監督経験の長かったジェシカ監督自身の苦悩が投影されているはずだ。原題は「MARIA」。オリジナルポスターにおける、過去のマスコミたちに背を向け前を見据えるマリアの眼差しは現代に生きる私たちに向けられている。

■ジャーナリスト 浜田敬子
誰かの人権や尊厳を傷つけてまで守るべき「表現の自由」はあるのか。傷つけられてきたのはマリアだけではない。声を上げてきた女性たちの、上げられなかった女性たちの苦しみに、私たちはどう応えるのか。

■作家 深沢潮 
声をあげなかったわけではない。
前衛的だ、挑戦作だ、芸術だといった言葉にかき消されてきたのだ。
これはけっして繰り返してはならない。

■インティマシーコーディネーター 浅田智穂(プレス寄稿文より抜粋)
マリアからの「視線」に、私たち観客は何を思うのか。私たち作り手は彼女に何を問われ、どう自問すべきなのか。かつてマリアに向けられた様々な「視線」の中で、彼女が戦い、傷つき、それでも生きてきた姿を目にした今、私たちは彼女の「視線」から目を逸らすことなどできないのだ。

【作品情報】
タンゴの後で
2025年9月5日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国公開
配給:トランスフォーマー
2024 © LES FILMS DE MINA / STUDIO CANAL / MOTEUR S’IL VOUS PLAIT / FIN AOUT

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