安田純平さん「仕組みを描く稀有な映画」 イスラム国の人質となった写真家の実話を描く「ある人質」鑑賞コメント

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安田純平さん「仕組みを描く稀有な映画」 イスラム国の人質となった写真家の実話を描く「ある人質」鑑賞コメント

 IS(イスラム国)の人質となったデンマーク人写真家ダニエル・リューの実話を映画化した「ある人質 生還までの398日」(2月19日)の公開を前に、著名人による鑑賞コメントが公開された。

 自らも取材中のシリアで武装勢力に3年4カ月に渡って拘束されたジャーナリストの安田純平さんは、「救出されるか、されないか。捕まっている本人が分かる。その仕組みを描く稀有な映画。己の運命を覚った者たちの狼狽と自暴自棄、達観、そして崇高さに胸が締め付けられた」とコメントしている。

 オウム真理教を追った「A」などで知られる森達也監督は「観始めて20分くらいで思う。これはとても大切な映画だ。その直感は最後まで変わらなかった」とコメントし、「孤狼の血」などの白石和彌監督「この映画は極限を描きながら命の重さに限りはないことを教えてくれる。決して他人事ではなく地続きな今見るべき映画だ」とコメント。ともに作品の意義を語っている。

 「ある人質 生還までの398日」は、2013年から2014年にかけてISの人質となったダニエル・リューが、拷問や飢えに苦しみ、恐怖と不安にさいなまれる地獄の日々を耐え抜いた姿を描いた作品。ダニエルを救出するために奔走する家族の姿も描かれている。ジャーナリストのプク・ダムスゴーが書き上げた「ISの人質 13カ月の拘束、そして生還」を原作とし、「ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女」のニールス・アルデン・オプレヴと出演もしているアナス・W・ベアテルセンが共同で監督している。デンマーク・アカデミー賞(ロバート賞)では、ダニエルを演じたエスベン・スメドが主演男優賞を受賞したほか、助演女優賞、観客賞、脚色賞を受賞した。

■森達也(映画監督・作家・明治大学特任教授)
観始めて20分くらいで思う。これはとても大切な映画だ。
その直感は最後まで変わらなかった。
まったく目を離せない。
憎悪に負けるな。愛しかない。
フォーリーの最後の言葉に胸をえぐられた。

■鎌田實(医師・作家)
極限の中を生きぬく力。
仲間を支えようとする人間の心。
「希望」は「絶望」に勝つ。
生きる勇気をもらえる映画だ。

■ピーター・バラカン(ブロードキャスター)
大変リアリスティックで、よく練られた脚本から様々な立場が伝わってくる。
今も続いている複雑な内戦を理解する上でも見る価値があり、
映画作品としても惹きつけられる。

■いのうえひでのり(「劇団☆新感線」主宰/演出家)
怖い映画だ。近所の青年団のあんちゃん達が凶悪化したようなISの身近な恐怖。
話が通じない相手との国を介しての“交渉”の難しさ、もどかしさ。
ドキュメンタリーを見てるようだ。

■丸山ゴンザレス(ジャーナリスト)
死よりも避けたいことがある。拷問や監禁だ。長く苦しみたくないからだ。
誘拐被害者たちは、取材する動機、行動を見れば、私となにもかわらない。
あそこにいたのは私だったかもしれない。そう思うとたまらなく辛い。
本作は戦争の悲劇と狂気のみならず、国家とシステムの矛盾を突きつける。

■白石和彌(映画監督)
想像を絶する地獄の日々に、見ているこちらも恐るべき緊張を強いられる。
自分が同じ立場だったら1ミリも生き抜く自信がない。
そして、家族の立場だとして果たして自分にどれだけの行動ができるだろうか。
この映画は極限を描きながら命の重さに限りはないことを教えてくれる。
決して他人事ではなく地続きな今見るべき映画だ。

■宮崎哲弥(評論家)
世界は憎悪(ヘイト)に満ちつつある。
私たちは憎悪に打ち勝つことができるのか。
これは解放=生還の物語ではなく、愛の戦いの物語だ。

■デーブ・スペクター(放送プロデューサー)
主人公のダニエルはもともと体操選手だったというが、
それだけに最後まで着地点が見えない!
生還するまで静観できない!

■池内恵(東京大学教授)
右も左も分からない状態でシリアに入国し、囚われの身になった青年が、
かろうじて生き延びた13ヶ月を過度な脚色や、善悪の判断を加えず、
背景にある国単位での国際政治の動向についてもほとんど触れることなく、
徹底して現場の視点から描いている。 

■安田純平(ジャーナリスト)
救出されるか、されないか。捕まっている本人が分かる。
その仕組みを描く稀有な映画。
己の運命を覚った者たちの狼狽と自暴自棄、達観、そして崇高さに胸が締め付けられた。


ある人質 生還までの398日
2021年2月19日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷、角川シネマ有楽町にて公開
配給:ハピネット 配給協力:ギグリーボックス
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