「サンドラの小さな家」フィルダ・ロイド監督参加 女性のエンパワメント語る鼎談実施

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「サンドラの小さな家」フィルダ・ロイド監督参加 女性のエンパワメント語る鼎談実施

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 住む場所を失ったシングルマザーが2人の娘たちのために再起する姿を描いた映画「サンドラの小さな家」が、明日2日から劇場公開される。公開を記念して、ロンドンからフィリダ・ロイド監督がリモートで登場し、本作に共鳴した日本の女性たちのエンパワメント(能力開花)を牽引する2つの企業、日本ロレアル株式会社ヴァイスプレジデントの楠田倫子氏、株式会社arca CEO/クリエイティブディレクターの辻愛沙子氏を招いた鼎談が行われた。

 鼎談では、日本のシングルマザーが置かれている状況などが、「サンドラの小さな家」の内容とからめて語られた。鼎談の模様は、本作を配給するロングライドのYouTube公式チャンネルにて配信予定。

【鼎談内容】
―辻さん、クレア・ダンは親友におこった出来事で「社会のシステムが崩壊しているんじゃないか」という思いが湧き上がり、この作品を作ることを決意したそうなのですが、映画を見ていかがでしたか?

辻さん:
やはりリアリティに尽きるなと思いました。劇中、裁判所でサンドラが「なぜもっと早く家を出なかったのか」と聞かれ、「その前に彼になぜ私のことを殴ったのか聞いてください」と言うシーンがありますよね。まさにそうだなと思いました。日本はルールや規律を守る国だと思いますが、ルールはそもそも人を守るためのものなのに、ルールを守ることで、目の前の人を傷つけていることがある。そのことを改めて考えました。もう一か所リアルだなと思ったのは、サンドラが暴力を振るう夫との昔の写真を見て「元の彼が恋しい」というところ。一度は好きになった人だし、だからこそ余計に苦しい・・・。忘れがたいシーンです。また、今日本では女性が一度退職すると復職率は50パーセントくらいなんです。やはり女性がなにかあった時に自分自身で生活を立て直す土台は必要だということも
、ひしひしと感じました。

ロイド監督:
日本の状況はわからないのですが、DVの環境に置かれている被害者たちにとって、このコロナ禍は非常に厳しいものだと思います。法廷のシーンの話がでましたが、実際に虐待から逃れようとした瞬間に殺人だったり暴力がエスカレートすることが多いのだそうです。それにも関わらず、加害者の前で証言をしなければならない。そういうことに光を当てたかった。そして私はこの作品を通じて、決してサンドラは被害者ではない、女性たちに希望があるんだと伝えたかったんです。サンドラは非常に勇敢で不屈の精神がある。もちろんコミュニティの助けはありますが、彼女が自分自身で1歩前に踏み出すことができる。それが本作を見る多くの女性に伝えたいメッセージです。もし1歩踏み出せばサンドラのようになれるんだと。サンドラを通じてポジティブなメッセージを伝えたいと思いました。

楠田さん:
監督がサンドラを被害者として描きたくなかったということにとても胸を打たれました。講座を通じて多くのシングルマザーの方たちと出会いましたが、非常に自己評価、自己肯定感の低い方が多いのです。まずそこを取り外す、自分を取り戻すのが大きなチャレンジなんです。この作品自体が女性たちへのエールだと思いますが、監督から今苦しい境遇にいる女性たちに応援メッセージを頂けると嬉しいです。

ロイド監督:
最初の1歩を踏み出すということですね。そして自分が誰であったかを思い出すこと。DVの状況下にいるときは戦地にいるようなものなので、その場所から離れたところから考えてみる。自分の声で何が起きているのかを形にする、言葉にするだけでもいいんです。1歩踏み出せば2歩3歩と歩めるのではないでしょうか。

―辻さん、広告業界でのジェンダーギャップはどう感じていますか?

辻さん:
世界全体では今まさにロレアルさんが実践されているような「ブランドパーパス」が重要視されています。企業が社会になにができるのか、広告が社会になにができるのかというメッセージや実際の支援、そういうものが増えてきています。このコロナ禍で国に頼り切るのは不安だなと感じることも多く、広告も「みなさんのために自分たちが何ができるか」という企業ではなく社会が主語のメッセージングのものが増えてきました。私たちクリエイターも企業も、学ぼう、変わろうとしています。私は映画に出てきた「メハル」の精神がとてもいいなと思いました。サンドラが被害者だから助けようとしたのかもしれないけど、家づくりに参加した人たちも何かしら救 われている。ハリエット・ウォルタが演じたペギーも最初は弱々しかったのに法廷でのエンパワメントが力強くかっこよかった。弱いから助けようではなく、弱さはめぐりうるもの。強者・弱者の関係じゃない「メハル」の考え方が素晴らしい。『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』も大好きな作品なのですが、ロイド監督は強い女性を描く天才だと感動しました!

ロイド監督 :
ありがとうございます。おっしゃるようにアイルランドの「メハル」、人を助けることが自分の助けになるということは、このパンデミックで皆さん強く感じられているんじゃないでしょうか。自分たちが大きなコミュニティの一員なんだと。よい隣人になろうと多くの人が感じている気がします。ちょっとおせっかいなくらいの隣人になることも大切なのかなと思います。

―日本の観客にメッセージをお願いします。

ロイド監督:
『サンドラの小さな家』のスタッフ・キャスト全員が日本で公開されることを大変喜んでいて、とてもわくわくしています。”Feel Good”さがある、希望があって、可能性を信じさせてくれる作品です。日本の多くの方に楽しんで頂けると嬉しいです。日本の皆さんはこれからオリンピックもありますね。皆さんにたくさんの素晴らしいことがありますように!

【プロフィール】

■フィリダ・ロイド
映画監督、英国演劇界を代表する舞台演出家。イギリス・ブリストル出身。
1999 年に世界的ヒットミュージカル「マンマ・ミーア!」の演出を手がける。2008 年にはメリル・ストリープ、アマンダ・セイフライドら主演の映画版『マンマ・ミーア!』も監督し、ゴールデン・グローブ賞作品賞、英国アカデミー賞英国作品賞にノミネート。また、2011 年に監督した映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』では、再び主演に迎えたメリル・ストリープをアカデミー賞
とゴールデン・グローブ賞の主演女優賞に導く。演劇分野では、近年手がけたシェイクスピア劇の女性版三部作で批評家から高い評価を得るほか、多数の舞台やオペラを手がけており、ロイヤル・フィルハーモニック・ソサエティ賞も受賞している。2010 年にはドラマへの貢献が認められ、大英帝国勲章 CBE を授与された。

■楠田倫子
米系消費財メーカー(ワーナー・ランバート、現ファイザー)などを経て 1999 年に日本ロレアル株式会社入社。『シュウ ウエムラ
』、『ヘレナ・ルビンスタイン』などロレアルグループ内のブランドの事業部長職を歴任。2015 年にアクティブ コスメティックス事業部事業部長に就任し、2020 年1月1日より現職。

■辻愛沙子
社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観にこだわる作品作り」の二つを軸として、広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルで手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より報道番組
「news zero」 で水曜パートナーとしてレギュラー出演している。

【作品情報】
サンドラの小さな家
2021年4月2日(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開
配給:ロングライド
©Element Pictures, Herself Film Productions, Fís Eireann/Screen Ireland, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute 2020

  • 作品

サンドラの小さな家

公開年 2020年
製作国 アイルランド、イギリス
監督  フィリダ・ロイド
出演  クレア・ダン、ハリエット・ウォルター、コンリース・ヒル
作品一覧