混乱と貧困のベネズエラ 顔なき奏者と孤高のアルバム制作を試みる男 「博士の綺奏曲」公開決定

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混乱と貧困のベネズエラ 顔なき奏者と孤高のアルバム制作を試みる男 「博士の綺奏曲」公開決定

 ロカルノ国際映画祭2023オープンドアに選出されたベネズエラ映画「博士の綺奏曲」が、2024年11月9日より劇場公開されることが決まった。

 「博士の綺奏曲」は、人も空気もよどみ続ける日常を生きる男が、謎の存在「ビースト」と音楽を奏で、孤高のアルバム制作を試みる姿を描き出した作品。研究所に勤めながらも、オルタナティヴ・ロックバンド「ロス・ピジャミスタス」のボーカルを務めていたアンドレスは、汚職にまみれた政権が主催する音楽祭にメンバーたちが無断で参加しようとしていたのを知り、脱退を決意する。ソロでの活動を開始したアンドレスのもとに現れた、顔なき奏者「ビースト」たち。混乱と貧困が日常をむしばんでいくベネズエラで、アンドレスはビーストたちとともに、孤高のアルバム制作を試みる。

 監督を務めるのは、本作が長編監督デビュー作となるニコ・マンサーノ。経済危機や大規模停電により国外への亡命者が続出し、混乱状態に陥った2016年当時のベネズエラを背景に、本作の脚本を執筆した。アートディレクター・作曲家としての顔も持つマンサーノは「Al Pie del Volcán (火山のふもと)」をはじめ、劇中曲のすべてを自ら制作。政治汚職やハイパーインフレなどベネズエラの情勢が悪化の一途をたどる中、5年間もの年月をかけて2021年に映画を完成させたた。

 カントリー、オルタナティブ・ロック調の流麗なメロディと、画面に広がるペールトーンのビジュアルによって独特の世界観を構築した本作は、ロカルノ国際映画祭2023のオープンドアに選出され、ベネズエラ映画祭では驚異の6冠に輝くなど、世界各地の映画祭で「史上最高のベネズエラ映画」として高い評価を得ている。

 本作を一足先に鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

■真木よう子(俳優)
かつて、幼い頃に神秘的な馬の観劇にいった時のことが脳裏に甦った。
己だけがわかる作品にしたくなる。
簡単に時代背景等を齧った人とは、この気持ちの共有を遠慮したい程。
それ程までに特別で、台詞以外の映像や音楽や表情で心情を揺さぶられた初めての芸術作品だ
有名な画家の様に創造者亡き後の評価にならない事が嬉しい

■ダースレイダー(ラッパー/映画監督)
腐敗した政治、堕落したモラル。そんな灰色の影に覆われたつまらない日常を生きるアンドレスの傷口(くちびる)から漏れ出す音のなんと色鮮やかなことか。音楽がミュージシャンの元にやってくる感覚が優しく、儚く描かれていく。

■荻野洋一(映画評論家/番組等の構成・演出)
78分の上映時間のあいだに87カットしか持たないこの映画がかもす音楽と空間性の調和は、見る者の心をひたすらにとろけさせる。

■小川あん(俳優)
なんだろう......この映画全体の漂う雰囲気、空気感。 ダリやマグリットのようなシュルレアリスムの絵画を鑑賞したときと似通った感覚を味わった。

■吉岡正晴(音楽ジャーナリスト)
多くの余韻とスペースを持つこの作品は、ひょっとしてハイパー・インフレ、政治の腐敗が進むベネズエラにおける批判も含めた「白昼夢」のようだ。

■佐々木敦(批評家)
バンドメンバーと袂を分かったアンドレスは、たぶん彼の脳内存在である鮮やかな黄色の衣をまとった顔のない「ビースト」たちと録音を行う。どちらかといえばリアリズムのこの映画において、そこだけ奇妙にファンタジックなのだが、かといって特別すごいことが起きるわけではない。そして、そこが良いのである。

【作品情報】
博士の綺奏曲
2024年11月9日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:Cinemago
©Bendita films/Cinemago

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