高橋伴明監督 映画化への道程、フィクションとして描きたかった部分などを語る 『「桐島です」』

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高橋伴明監督 映画化への道程、フィクションとして描きたかった部分などを語る 『「桐島です」』

 2025年7月4日より劇場公開される、2024年に亡くなった指名手配犯・桐島聡を、高橋伴明監督が描く映画『「桐島です」』から、高橋伴明監督のオフィシャルインタビューが公開された。

 インタビューでは、高橋監督が桐島聡のニュースを知った時のこと、映画化への道程、フィクションとして描きたかった部分、桐島聡を演じた毎熊克哉の演技などについて語っている。

 『「桐島です」』は、桐島聡の軌跡を「夜明けまでバス停で」で第96回キネマ旬報ベスト・テン日本映画監督賞、脚本賞を始め数々の映画賞を受賞した脚本家・梶原阿貴と高橋伴明監督のコンビがシナリオ化した作品。桐島の盟友で現在も反権力闘争を続ける宇賀神寿一氏も取材協力した。医師の長尾和宏が、『痛くない死に方』『夜明けまでバス停で』に続き、高橋作品の製作総指揮を務める。

 昭和、平成、令和の3つの時代を舞台としている。1970年代の高度経済成長の裏で社会不安が渦巻く日本。大学生の桐島聡は反日武装戦線「狼」の活動に共鳴し、組織と行動をともにする。しかし、1974年、三菱重工爆破事件で多数の犠牲者を出したことで、深い葛藤にさいなまれる。組織は警察当局の捜査によって、壊滅状態に。指名手配された桐島は偽名を使い逃亡し、やがて工務店での住み込みの職を得る。ようやく手にした静かな生活の中で、ライブハウスで知り合った歌手キーナの歌「時代遅れ」に心を動かされ、相思相愛となる。

 桐島聡役で主演するのは毎熊克哉。さそり部隊のメンバー宇賀神寿一役を奥野瑛太が務めるほか、ミュージシャンのキーナ役に北香那、謎の女役に高橋惠子が顔をそろえる。ほかに、原田喧太、影山祐子、甲本雅裕、山中聡、白川和子、下元史朗、趙珉和が出演する。

 2024年1月26日に、1970年代の連続企業爆破事件で指名手配中の「東アジア反日武装戦線」メンバーである桐島聡容疑者とみられる人物が、末期の胃がんのため、神奈川県内の病院に入院していることが判明した。男は数十年前から「ウチダヒロシ」と名乗り、神奈川県藤沢市内の土木関係の会社で住み込みで働いていた。入院時にもこの名前を使用していたが、健康保険証などの身分証は提示しておらず、男は「最期は本名で迎えたい」と語った。報道の3日後の29日に亡くなり、約半世紀にわたる逃亡生活に幕を下ろした。

 高橋伴明監督のインタビュー全文は以下の通り。

――2024年1月、桐島聡のニュースを知ったとき、どのように感じましたか?
「日本にいたのか」と思いました。彼は海外にうまく逃げているのではないかという予想もあったので、「日本にいたのか」という驚きがまずありました。そして、彼は単に逃げ続けていたのではなく、一般社会に溶け込んで生きていたからこそ、ここまで長く逃亡を続けることができたのだろう、とも感じました。それも、小さな町にひっそりと隠れていたわけではなく、神奈川県藤沢市という都市に住み、普通の社会の中で暮らしていた。そんな事実を知り、改めて彼の生き方に関心を持ちました。

――それが映画になると思ったのは、いつ頃ですか?
事件が報じられたとき、ちょうど別の企画を進めていたのですが、その映画のプロデューサーの小宮亜里さんが「いや、これをやるべきでしょ」と言い出しました。僕自身、過去に連合赤軍事件を題材にした『光の雨』(2001年)を撮った経験もあり、「この話を映画として残すべきだ」と考えました。49年もの間、逃亡し続けた一人の男の物語には、映画として描くべきテーマがある。そこから、急遽企画が動き始めました。

――脚本はどのように作られたのでしょうか?
すぐに(『夜明けまでバス停で』でコンビを組んだ)脚本家の梶原阿貴さんに電話しました。すると、彼女が「もうスクラップは作っていますよ」と言ったんです。僕は、事実とフィクションをどう織り交ぜるかを考えていたので、「嘘の部分は俺が責任を取るから、事実の部分を5日でまとめてくれ」とお願いしました。2月の初めには作業が始まり、本当に5日で第一稿が完成しました。僕自身も「こういう話にしたい」という下地を作っていたので、それと梶原さんの脚本にコメントを書き加えながら進めていきました。

――フィクションとして描きたかったのはどんな部分ですか?
それは、桐島の青春時代です。彼は単なるイデオロギーの信奉者ではなく、もっと普通の若者だったのではないかと思うんです。もし彼が純粋に思想だけで突っ走っていたなら、もっと早く捕まっていたのではないか。彼には、革命家としての一面とは別に、ごく普通の青年としての側面もあったはずです。だからこそ、青春や恋愛の部分を描くことで、「逃亡者」ではなく「一人の人間」としての桐島聡を表現したかった。

――毎熊克哉さんの演技について、どのように評価されていますか?
毎熊さんは映画をよく理解している俳優で、細かく説明しなくても、こちらの意図をすぐに察してくれる。彼はもともと監督志望だったこともあって、現場の流れや演出意図を深く理解してくれるんです。演技にも深みがあり、表情一つで内面の葛藤が伝わってくる。その内面的な演技力が、この映画には欠かせなかったですね。撮影を進めるうちに、「この役を彼にやってもらえて良かった」と何度も思いました。

――映画で描きたかったものは何でしょうか?
この映画は「単なる逃亡の物語ではない」ということです。桐島聡が49年間逃げ続けたのは、ただの逃亡生活ではなく、彼の中に人間的な優しさがあったからではないかと考えています。彼は、弱い立場の人に寄り添うことができる人間だった。
毎熊さんの所属事務所のアルファーエージェンシー社長、万代博実さん(2025年2月11日逝去、享年74)が「これは青春映画だ」と言ってくれたのがうれしかった。単なる社会派の映画でもなく、政治運動の映画でもなく、一人の人間の青春の軌跡を描いたつもりです。

【作品情報】
「桐島です」
2025年7月4日(金)より新宿武蔵野館ほかにて公開
配給:渋谷プロダクション
©北の丸プロダクション

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