【コラム】ドキュメンタリーの奥深さを堪能 「SNSー少女たちの10日間ー」「ブックセラーズ」

映画スクエア

 映画を観るとき、映画=エンターテイメントとして作品を選んでいるとしたら、社会問題や深刻なテーマを扱っているドキュメンタリーは、ちょっぴり手を出しにくいジャンルかもしれません。もしくはテレビやネットのニュースで十分という捉え方もあります。

 私自身も十代の頃は、好きな俳優が出ている映画やハリウッド超大作がメインで、ドキュメンタリーの奥深さに気づき必要性を感じたのは社会人になってから。しかし、1本でもいい、自分にとって衝撃的なドキュメンタリーと出会うと意識は変わります。ニュースでは伝えきれないことが描かれている、ニュースでは取り上げないことが映し出されている、という気づきの体験を得ることで、その後のニュースの見方も、他の映画の何気ないシーンの見方も変わったりする。一度そういった体験をすると、時々ドキュメンタリーを観ようかな、観たいな、という気持ちになるんですよね。自分自身が面白いと感じるかどうかという基準で選ぶのとは少し違って、これは自分自身にとって必要かどうか、観ておくべきものかどうか、という基準で選ぶようになる。

 今回は、リアリティーショーとも言えるドキュメンタリー『SNSー少女たちの10日間ー』、世界最大規模のNYブックフェアの裏側を追いかけたドキュメンタリー『ブックセラーズ』の2本を紹介しようと思います。ある意味、どちらも衝撃的なドキュメンタリーです。

【コラム】ドキュメンタリーの奥深さを堪能 「SNSー少女たちの10日間ー」「ブックセラーズ」
(左)「SNSー少女たちの10日間ー」@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved. 
(右)「ブックセラーズ」© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved


■『SNSー少女たちの10日間ー』 少女のSNSでコンタクトする男性たち

 まずは『SNSー少女たちの10日間ー』。タイトルからどんな内容を想像するでしょうか。少女たちのSNS事情を扱った作品ではありますが、想像以上にショッキングです。2017年、チェコの通信社から1本の動画作成の依頼を受けたヴィート・クルサーク監督は、バーラ・ハルポヴァー監督と共にある実験を試みます。それは「12歳の少女」として偽のSNSアカウントを作成し、どんな人たちがコンタクトしてくるのか調査するというもの。なんと数時間で80人以上の成人男性がコンタクトしてきて、その内容は、ビデオセックスの要求や自身の性器の写真やポルノのリンクを送りつけてくるなどでした。

 その後2人の監督は、インターネット上で虐待されている子供たちがいる、この問題を長編ドキュメンタリーとして製作すべきだと思い、映画の企画がスタートします。

 18歳以上だけれど見た目は12歳に見える女優をオーディションで選び、彼女たちにあるミッションを与えます。それは偽のSNSアカウントで12歳のふりをして、連絡をしてきた男性とコミュニケーションを取ること。やりとりは10日間。まるで犯罪の現場をリアルタイムで目撃しているような、本当にこんなことが実際に起きているのかと目を疑いたくなるような事実を目の当たりにするのです。

 また、少女たちは何故SNSでコンタクトしてきた見ず知らずの男性たちの要求に応えてしまうのか──。その理由や仕組みを知ると、どうしたら子供たちを守れるのかはもちろん、私たちの生活必需品となったインターネット、SNSとの付きあい方を今一度考えなければならないと思うはずです。

【コラム】ドキュメンタリーの奥深さを堪能 「SNSー少女たちの10日間ー」「ブックセラーズ」
「SNSー少女たちの10日間ー」@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.


■『ブックセラーズ』 女性が活躍する難しさと意義も

 一方、『ブックセラーズ』は、紙の本についてのドキュメンタリーです。みなさんは本を読むとき、紙の書籍ですか、それともデジタル書籍ですか。インターネットの普及と共に確かに紙の本は減少していますが、紙には紙のデジタルにはデジタルの良さがあり、私自身は、お気に入りの本は紙の書籍として購入し、仕事のリサーチなどで必要な本は図書館で借りたり、デジタル書籍で購入したり、用途によって紙とデジタルを使い分けています。

 この映画に登場する“ブックセラーズ”と呼ばれる人たちは、もちろん紙の本を愛している人たち。ごく普通に本と接している人から見ると、かなりのコレクトマニアに映ります。

 40万冊の本を所有するブックセラー、児童書のスペシャリスト、大型本を偏愛するブックセラーなど、ニューヨークの老舗書店の人々から業界で名を知られたブックディーラー、希少本のコレクターまでさまざまなタイプの愛書家たちが登場します。

 なかなかお目にかかれない本とも出会うこともできます。レオナルド・ダ・ヴィンチの手稿、マンモスの毛の標本が付いた写真集、グレート・ギャッツビーの初版本……そして、本の価値がどうやって決まるのか、どうやってブックセラーになっていったのかなどが愛書家たちのインタビューで語られるのですが、なかでも特に興味深かったのは、ニューヨークで書店を営む三姉妹のパートです。ブックディーラーの世界はかつて男性ディーラーが多く、そのなかでどうやって彼女たちは書店を経営してきたのか、女性が活躍する難しさと意義も伝えています。

 映画を何処で観たか、誰と観たかで、その映画の記憶のされ方が違うように、手に取ることができる物理的な紙の本で読む、タブレットやパソコンに映し出されるデジタルの本で読む、どういう形で読むかによっても記憶の刻まれ方は違うのではないかなと。そんなことを考えながら、次に読む本は紙の本にしよう、できるだけ書店で買うようにしよう、と思わせてくれたドキュメンタリーです。
 

【コラム】ドキュメンタリーの奥深さを堪能 「SNSー少女たちの10日間ー」「ブックセラーズ」
「ブックセラーズ」© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

 


【コラム】ドキュメンタリーの奥深さを堪能 「SNSー少女たちの10日間ー」「ブックセラーズ」
photo:Toru Hiraiwa

新谷里映
映画ライター・コラムニスト。
地元の出版社にて情報誌やサブカルファッション誌の編集を経験後、2005年3月に独立、仕事の拠点を東京へ。現在はフリーランスの映画ライター、コラムニスト、インタビュアーとして、雑誌・ウェブ・テレビ・ラジオなど各メディアで映画を紹介するほか、日本映画の撮影現場に参加するオフィシャルライターとしても活動する。映画&恋愛、映画&旅など映画を絡めたコラム連載も多数。東京国際映画祭(2015~2020年)や映画のトークイベントの司会も担当。解説執筆を担当した書籍「海外名作映画と巡る世界の絶景」が発売中。


■作品情報
『SNS-少女たちの10日間-』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開中
配給:ハーク
@2020 Hypermarket Film, Czech Television, Peter Kerekes, Radio and Television of Slovakia, Helium Film All Rights Reserved.

『ブックセラーズ』
ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、UPLINK 吉祥寺ほか全国順次公開中
配給:ムヴィオラ、ミモザフィルムズ
© Copyright 2019 Blackletter Films LLC All Rights Reserved

  • 作品

SNS-少女たちの10日間-

公開年 2020年
製作国 チェコ
監督  バーラ・ハルポヴァー、ヴィート・クルサーク
出演  テレザ・チェジュカー、アネジュカ・ピタルトヴァー、サビナ・ドロウハー
  • 作品

ブックセラーズ

公開年 2019年
製作国 アメリカ
監督  D・W・ヤング
出演  
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