映画スクエア
今年、ワーナー・ブラザースの世界興収が40億ドルを超えたことが明るいニュースとして報じられたことはご存じだろうか?2019年以来の数字で、コロナ禍以降、低迷するハリウッドに一筋の光を与えた。これにはブラッド・ピットの『F1/エフワン』や人気ゲーム原作の『マインクラフト/ザ・ムービー』以外にも、『罪人たち』や『死霊館 最後の儀式』、11月末に日本公開を控える『WEAPONS/ウェポンズ』といったホラー映画の爆発的なヒットも貢献している。今回、紹介する『ファイナル・デッドブラッド』も世界興収が3億1510万ドルという大成功を収め、当初、配信とパッケージスルーだった日本でも急きょ限定公開が決まり、多くのホラーファンを集めた。
その『ファイナル・デッドブラッド』だが、実は2000年から続く『ファイナル・デスティネーション』のシリーズ最新作だということは意外に知られていない。それもそのはず。前作で第5作にあたる『ファイナル・デッドブリッジ』は2011年の作品で、かれこれ14年もシリーズは休眠状態だったのだ。これを復活させたのは、かつてのシリーズを支えたプロデューサーたちと、ベースとなる骨子を組み立てたトム・ホランド主演の『スパイダーマン』シリーズ(2017~2021)の監督ジョン・ワッツ。そして今回、監督を務めた『FREAKS フリークス 能力者たち』(2018)のアダム・スタインとザック・リポフスキーのコンビだ。製作期間に3年を費やし、話も練りに練っただけあって、その面白さはシリーズ最高のレベルと言ってもいいだろう。
映画の冒頭は、1968年、地上150メートルを超すスカイビューの高層レストランから始まる。アイリスは最愛の人からプロポーズされるが、その直後、高層レストランは崩壊し、大勢の人々が一瞬で亡くなってしまう。だがこれは、現代を生きる大学生ステファニーが見ていた悪夢で、毎日それに悩まされていたという出だし。そしてアイリスが祖母の名前であることから、ステファニーは実家に帰り、悪夢の謎を解こうとする。
このシリーズの基本設定は、映画の冒頭であり得ないような惨劇が起きて、大勢が死ぬのだが、それは主人公の予知夢で、主人公とその仲間は惨劇を回避するものの、やがて「死」が彼らを追いかけ、次々と不可解な死を遂げていくというものだ。この映画にはフレディやジェイソンのようなホラーキャラクターは出てこないが、明らかに得体の知れない何かが、登場人物を死に追いやっていて、それがとても怖さを感じさせる作りになっている。いつもは主人公とその友人が死んでいくのだが、今回は原題が「ブラッドライン」=「血筋」であることからも分かるように、ある一族が死んでいくことになる。マンネリ化を避け、基本設定は生かすという離れ業をやってのけたのは、ジョン・ワッツ。『スパイダーマン』に80年代の青春映画の要素を入れ、大成功に導いた功労者だ。また脚本に『スクリーム』(2022)、『スクリーム6』(2023)、そして『アビゲイル』(2024)のガイ・ビューシックが加わったことも成功の大きな要因だろう。所々に差し込まれたユーモアセンスは、限定公開された日本の劇場でもバカ受けだった。
忘れてはいけないのが、本作が『キャンディマン』(1992)で主役を演じたトニー・トッドの遺作になったという事だ。彼が演じたのはシリーズの顔でもあるウィリアム・ブラッドワース。死に直面する若者たちに謎の忠告をしては姿を消す不思議な存在だったが、その謎がいよいよ本作で明かされる。そして彼の登場シーンでは、「死は予測できない。一瞬一瞬を楽しんで過ごせ」という真っ当なメッセージが登場人物と観客の双方に与えられる。本作の撮影後、亡くなった彼だからこその力強い言葉と言えるだろう。
ソフトのリリースや配信は予定通りなので、劇場で鑑賞した人にも見逃した人にも、すぐ家で観られるという嬉しい状況になった。さすがに本国のように4K UHDでのリリースはなかったが、ブルーレイの画質はマスターの良好さを感じさせる高画質ぶりで、4Kと言われても信じてしまう人がいてもおかしくないレベルだ。音はドルビーアトモスとドルビーデジタル5.1chが収録され、やはりアトモスが圧倒的な破壊力を感じさせてくれる。対応したアンプやサウンドバーをお持ちの方は、ついボリュームを上げたくなるはずだ。
特典も大充実。監督コンビの音声解説では撮影の背景を教えてくれ、どのように撮影したか、詳しく知ることができる。シリーズの顔であるウィリアム・ブラッドワースを演じたトニー・トッドの撮影時の様子も語っている。「制作の舞台裏」では若い出演者たちのシリーズへの思いが語られ、「最恐の死の連鎖」では死に至る流れとイメージをどのように創出したかが知ることができる。「ウィリアム・ブラッドワース」は同役を演じたトニー・トッドへのトリビュートでもある貴重な特典。スタッフキャストがどれだけ彼を愛していたかが伝わってくる。
どんどん人が死んでいくのに、やり過ぎ感が勝って、怖さよりもゲーム感覚で観ることができてしまう本作だが、いかに生きていくべきかだけはきっちり考えさせてくれる。理解ある人と楽しんでもらいたい。
関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】
飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
『ファイナル・デッドブラッド』 デジタル配信中
権利元:ワーナー ブラザース ジャパン合同会社
ブルーレイ&DVD発売元/販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
© 2025 Warner Bros. Entertainment. All Rights Reserved