映画スクエア
東日本大震災で大切な人を亡くした人の”心の復興”を描いた映画「漂流ポスト」が、震災から10年となる本年の3月5日から劇場公開される。
「漂流ポスト」は、東日本大震災で亡くなった人への想いを受け止めるために作られた、岩手県陸前高田市の山奥に建てられた実在のポストを題材とした30分の短編。東日本大震災で親友の恭子を失ったことを受け入れられずに過ごす園美が、漂流ポストの存在を知り・・・という物語が展開される。漂流ポストの存在を知った清水健斗が、監督・脚本・編集・プロデュースを手がけた。これまで国内外の映画祭などで上映され、ニース国際映画祭やロンドン映画祭などで多くの賞を受賞してきた。
公開を前に、主演の雪中梨世のオフィシャル・インタビューが公開された。雪中は、東日本大震災で親友を失った傷を抱える主人公・園美役を演じた。インタビューで雪中は、撮影中のエピソードなどを語っている。
【雪中梨世 インタビュー】
Q. 実在の漂流ポストの管理人の赤川さんとはどのような話をしましたか?
漂流ポストにどんな想いが込められているかという話をしていただいて、どんな方が今まで来てくださったとか手紙を書いたことによって一歩踏み出せたんだよというお話をしていただきました。
Q. 監督とは撮影前に何か話しましたか?
「気負わず、雪中さんが思ったままやってくれていいからね」と言っていただきました。撮影前に、漂流ポストを取材した番組の映像と被災地の高台にある「風の電話」の映像をいただきました。
Q.撮影はいかがでしたか?
本当に3.11を風化させないという想いが集まってできた撮影だったと思います。(実在の漂流ポスト管理人の)赤川さんの全面協力で、実際に漂流ポストがある場所で撮影ができたということもそうですし、監督が主人公の心情に寄り添ってくださっていたので、普段だったら映画の撮影はスケジュールの関係でバラバラに撮ったりするんですけれど、脚本通り順撮りで撮ってくださったので、すごくやりやすかったです。
Q.ドキュメンタリー的なシーンもあるとの事ですが、どのシーンですか?
(漂流ポストのある)ガーデンカフェ森の小舎に実際に届いた手紙を入れている箱があって、その手紙を読むシーンです。
Q. 監督は、この映像を本編で使うとは言わないでカメラを回していたそうですね?
言わなかったんです!手紙を書いている一文字一文字に魂がこもっていて、どういう想いでこの手紙を書いたんだろうと考えるだけで言葉にできない想いが出てきました。
Q. 実際の漂流ポストやガーデンカフェ森の小舎で撮影できたことは演技に影響しましたか?
だいぶ大きかったと思います。森の中にあるんですけれど、周りに建物がなく、本当に静かで、赤川さんの包み込むような優しさが全面的に出てきているので、そこで引き出されるものがありました。
Q.「一歩踏み出すことが、忘れることにつながりそうで怖いんです」というセリフのシーンが真に迫っていましたが、撮影時のエピソードはありますか?
私もそのセリフが印象的でした。実際に私も撮影前に大切な人を亡くしたこともあって、どうしたらいいんだというやり場のない気持ちが迷いになっていました。「自分の自己満じゃないか」「忘れることにつながりそうで怖い」という思いでそのまま演じました。自分の葛藤もあったと思うし、それが漂流ポストに来る人たちと同じ想いなのではないかと感じたので、自分の迷いや葛藤は全面的に出していこうと思いました。
Q.本作で特に注目してもらいたい部分はありますか?
手紙を書くシーンです。撮影のちょっと前に亡くなった祖母に実際に手紙を書いたんです。撮影前も、このモヤモヤした気持ちはどうしたらいいんだろうなとすごく迷っていたので、この手紙に全部ぶつけようと思って書いたら、本当に不思議なくらい肩の力がふーって抜けて、すっきりしたんです。なので、手紙を書くということは文字にエネルギーが込められているんだなとすごく感じました。
Q. ただ役者として撮影に行ったというだけではなく、大切な人を亡くした一人として、漂流ポストに助けられたという部分があるんですか?
はい、それがきっかけで手紙を書くようになったし、伝えたいときは手紙にしようと思うようになりました。
Q. インタビューを読んでいる方にメッセージをお願いします。
3年前に海外(映画祭)に行った作品が、震災から10年という節目の年に劇場で公開していただけることは本当に嬉しいです。この作品を見て、1人でも多くの人が一歩前進できるきっかけになればいいなと思っています。
漂流ポスト
3月5日(金)よりアップリンク渋谷にて他全国順次公開
配給:アルミード
(c) Kento Shimizu