卒業制作で企画を出したら退学処分に ベトナム産鬼畜系ホラー 一生忘れられない悪夢をあなたに 『Kfc』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

卒業制作で企画を出したら退学処分に ベトナム産鬼畜系ホラー 一生忘れられない悪夢をあなたに 『Kfc』
© Le Binh Giang / MAP×Cinemago

飯塚克味のホラー道 第89回『Kfc』

 ちょっと前から北米のカルト系ソフトメーカーVinegar Syndromeのパートナーレーベルで話題になり、日本の輸入ビデオショップ、ビデオマーケットでも大人気になっていた問題作がついに日本公開となった。タイトルがあまりにも意味深だが、想像通りの展開に苦笑いせざるを得なかった。予告編の「日本極秘公開決定」も納得のヤバさだ。

 製作国はベトナム。監督・脚本のレ・ビン・ザンは映画学校の卒業制作として本作を作ろうとしたらしいのだが、脚本を読んだ大学側が「あまりに残酷過ぎる」と企画を却下。レ・ビン・ザンは大学を退学処分させられたという。そんな彼に救いの手を出したのが『青いパパイヤの香り』(1993)や『夏至』(2000)、『ノルウェイの森』(2010)などで知られるトラン・アン・ユン監督だったというのだから、どこに映画の神様が潜んでいるのか分からない。

 出来上がった映画はニューヨークアジアン映画祭(最優秀賞受賞)、ロッテルダム国際映画祭などで上映された。レ・ビン・ザン監督はベトナム政府に属さない初の独立系映画学校であるトリガー・フィルム・アカデミーを創設し、若手映画制作者を育成することにも力を注いでいる。きっとその映画学校では自由な作風が許され、今後、驚くような才能が出てくるかもしれない。

卒業制作で企画を出したら退学処分に ベトナム産鬼畜系ホラー 一生忘れられない悪夢をあなたに 『Kfc』
© Le Binh Giang / MAP×Cinemago

 さて、そんな本作の内容だが、太った男がコークとペプシを混ぜると美味しいという、どうしようもない話をし、会話が終わると相手の男の首を刺し、部屋を出ると今度はその男が車にひかれ、今度はドライバーがボコボコにするという、もう無法地帯のような始まり方をする。正直、内容がよく分からないまま、いろんな人物による暴行、拷問シーンが続き、段々と人間関係が見えてくるという不思議な作りになっている。

 クエンティン・タランティーノ監督の『レザボア・ドッグス』(1991)のようだと言えなくもないが、残虐シーンがあまりにも際立っている上に、画面の作りが非常に暗く、気軽にホラーを楽しもうとする観客をはねのけようとしているのではないかとすら思えた。

 この手の映画で比較しやすいのがイーライ・ロス監督の『ホステル』(2005)や、ドイツのユルグ・ブットゲライト監督の『ネクロマンティック』(1987)辺りだろう。どちらもハイレベルの耐性が無い人にはお勧めできないものだが、本作も正にそのレベルに達している。上映時間はわずか69分だが、上映後はどっと疲労感を感じ、人によっては見たことを後悔するかもしれない。

 何よりショッキングなのは、日本では絶対に許されないであろう、子どもたちが笑いながら××してしまうシーンだ。もちろん本物ではないだろうし、芝居だというのも分かっている。それでも撮影できてしまうことに驚きを隠せないし、かなりの観客にとってトラウマになるのではないか?それでも観てみたいと言われれば、自分は止める術を知らない。この夏、本気で怖い映画を観てみたいという人には、間違いのない一本とだけ言っておこう。因みに本作はR-18の成人指定だ。

関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


卒業制作で企画を出したら退学処分に ベトナム産鬼畜系ホラー 一生忘れられない悪夢をあなたに 『Kfc』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
Kfc
2024年年7月20日(土)シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
配給:MAP×Cinemago
© Le Binh Giang / MAP×Cinemago

作品一覧