「ポゼッサー」 ブランドン・クローネンバーグが敢えて父親に近いフィールドで 【飯塚克味のホラー道】

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

「ポゼッサー」 ブランドン・クローネンバーグが敢えて父親に近いフィールドで 【飯塚克味のホラー道】
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飯塚克味のホラー道 第14回「ポゼッサー」

 『ゴーストバスターズ/アフターライフ』のジェイソン・ライトマン監督や、『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』のパノス・コスマトス監督など、2世監督の活躍が目立ってきた昨今。新作『ポゼッサー』のブランドン・クローネンバーグ監督もまた、偉大過ぎる父親の息子という肩書からは簡単に逃れられない一人だ。彼の父親はあの『ヴィデオドローム』や『ザ・フライ』のデヴィッド・クローネンバーグなのだ。だがブランドンは敢えて、違うフィールドでなく、父親の世界観に近いフィールドで作品を生み出している。しかもかなり出来が良いのだから応援しない訳にはいかないだろう。

 その『ポゼッサー』の物語だが、これがちょっと複雑で面白い。主人公は要人専門に暗殺を請け負う秘密組織の暗殺者タシャ。だが彼女のやり方はスナイパーのように銃で標的を撃ち抜くのではなく、ターゲットに近い人物の意識を乗っ取って、殺害するのだ。そのため周囲は背後に何があるか分からず、証拠も残らない。だがある人物を殺害しようとした時、意識の乗っ取りがうまくいかず、逆に向こうが乗っとる側の意識を垣間見てしまう。

 話だけだとSFスリラーではないかと思う人もいるだろうが、暗殺シーンでは敢えて銃を使わず、ナイフで何度も刺し続けるなど、人体から生命が消えていく瞬間を執拗に撮り続け、これはもう間違いなくホラーだろうと思わせる場面が何度も出てくる。特に精神面の乗っ取りを描いたイメージ描写は顔が溶けたり、二つの人格が分裂する様を見せ、シュールでグロテスク、だが同時にアート的なものにもなっている。

 主人公の暗殺者タシャを演じたアンドレア・ライズボローはトム・クルーズの『オブリビオン』や、エイミー・アダムスの『ノクターナル・アニマルズ』など多くの作品に出演してきたので、見覚えがあるという人もいるはず。彼女の冷徹な上司を演じたのはジェニファー・ジェイソン・リー。最近ではクエンティン・タランティーノ監督の『ヘイトフル・エイト』が強烈だった。またターゲットになるIT企業の社長は『ロード・オブ・ザ・リング』などのショーン・ビーン。最も多く殺され役を演じてきた彼がどのような目に遭うのか、是非ともスクリーンで確認してほしい。

 あと注目してほしいのが、冒頭の暗殺シーンが終わった後、暗殺者タシャが受けるテストのシーンだ。精神状態が元通りになっているか、記憶を再確認するため、いくつかの物を見ては、その背景を語るのだが、これが重要な伏線になってくる。

 資料にはブランドン・クローネンバーグのことを父親の遺伝子を受け継ぐ存在として紹介されているが、当面はそうした扱いが続くだろう。だがそうしたプレッシャーをはねのけるだけの才能を秘めていることが本作からはうかがい知れる。『ポゼッサー』は誰もが楽しめる作品ではないが、ジャンルムービーを普段からチェックしている人なら、決して見逃してはいけないとだけ言っておきたい。

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「ポゼッサー」 ブランドン・クローネンバーグが敢えて父親に近いフィールドで 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


ポゼッサー
2022年3月4日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
提供:キングレコード 配給:コピアポア・フィルム
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