ダニー・ボイル監督の大ヒットパンデミックホラーが復活! 『28年後...』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第126回『28年後...』

ダニー・ボイル監督の大ヒットパンデミックホラーが復活! 『28年後...』

 2002年、『トレインスポッティング』(1996)や『ザ・ビーチ』(1999)で注目を集め始めたダニー・ボイル監督がホラー大作『28日後...』を発表した時は、あまりの路線変更ぶりに多くの観客が戸惑った。ちょっとゆがんだ青春物を作り続けてきたイギリスの新鋭が、ゾンビと明言しないものの、見た目には明らかな“走るゾンビ映画”を作り上げたのだ。新種のウイルスが発生して、感染者は凶暴化し、普通の人々を襲い始める。そんな絶望的な状況の中、生きていこうとする人々を描いたのが第1作の『28日後...』だった。人のいないロンドンの風景はとても斬新だったが、コロナで全く同様の光景を目にしたという意味でも予見的な作品だったと言えよう。この作品のオリジナル脚本は、後に『エクス・マキナ』(2015)、『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(2024)で注目を浴びるアレックス・ガーランドの手によるもの。

 因みに、ザック・スナイダー監督が『ドーン・オブ・ザ・デッド』(2004)で走るゾンビを大々的に視覚化したのは、その2年後だ。続編は2007年に公開された『28週後...』。イギリスにNATO軍が派遣され、感染者が増大する中、復興計画が進められる。だが結局、ウイルスの勢いを封じ込めることはできず、感染は拡大していく。ダニー・ボイルとアレックス・ガーランドは製作総指揮に回り、スペインのフアン・カルロス・フレスナディージョが監督と共同脚本を担当した。

 この2本で完結したと思われていたシリーズだったが、今年になって、まさかの復活が実現。ダニー・ボイル監督とアレックス・ガーランド脚本というオリジナルメンバーも復帰し、しかも3部作での製作ということまで発表されている。全米では最初の週末で3000万ドルの大ヒットを記録したことも特筆すべき点だ。

 さて、18年ぶりに作られた『28年後...』だが、ウイルスはイギリス国内で封じ込められたものの、海外の軍隊は撤退し、事実上、世界から見放された状況になっている。本土から離れた島で暮らす一部の人々は、何とか人間らしい暮らしを維持していたが、12歳のスパイクは、父ジェイミーと共に、本土に渡り、感染者の実態を初めて目撃する。だがそこには感染者と共生する謎の人物ケルソン医師もいて、スパイクの視野は一気に広がっていく。

ダニー・ボイル監督の大ヒットパンデミックホラーが復活! 『28年後...』

 息子に新たな体験をさせる父親ジェイミーには『ブレット・トレイン』(2022)や『クレイヴン・ザ・ハンター』(2024)など活躍が著しいアーロン・テイラー=ジョンソン。原因不明の病に侵され家から出ようとしない母親アイラには『キリング・イヴ/Killing Eve』(2018~2022)や『フリー・ガイ』のジョデイ・カマー。後半のドラマの鍵を握るドクター・ケルソンは『教皇選挙』(2024)のレイフ・ファインズが、全身を赤いヨードで覆った不気味な姿で演じ、強烈な印象を残す。

 感染者も新たな種類が出てきて、28年後という時代の流れを感じさせてくれる。太ってゆっくり動くことしかできないスローロー、野獣のようなバーサーカーといった感染者が全裸で襲ってくる光景は悪夢としか言いようがない。作品のビジュアルデザインに使われている髑髏の塔も圧巻で、後半に進むに従って、作品のスケール感が上がっていくのが分かるはずだ。個人的には感染者と生者の距離感や、人間が圧倒的少数になってしまった世界観など、ジョージ・A・ロメロ監督の『死霊のえじき』(1985)に近いと感じたのだが、そうした過去作との関係も是非ご自身の眼でチェックしてもらいたいところだ。

 更に本作で特筆すべきことは作品がiPhoneで撮影されたことだろう。『28日後...』もデジタルカメラで撮影され、従来の映画とは異なる臨場感を持っていたが、今回はショットによっては20台ものiPhoneを使い、バレットタイムにも挑戦している。スクリーンサイズも2.76:1という、通常のシネスコよりも横長のアスペクトを採用し、ロングショットをはじめ、独特の効果を生み出すことに成功している。この超横長画面の効果を体感してもらうためにも可能な限り大きめのスクリーンでの鑑賞は欠かせない。

 すでにキリアン・マーフィの復帰が発表されている本作の続編だが、撮影がすでに完了し、来年1月には全米公開が予定されている。日本でも間違いなく公開されるだろうが、そのためにも本作をスクリーンで観ておくことは意味のあることだろう。

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ダニー・ボイル監督の大ヒットパンデミックホラーが復活! 『28年後...』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
28年後...
2025年6月20日(金)より全国の映画館で公開

作品一覧