人々が溶けていく地獄絵図 今の時代では決して作ることのできない70年代ホラー 『魔鬼雨』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

人々が溶けていく地獄絵図 今の時代では決して作ることのできない70年代ホラー 『魔鬼雨』
『魔鬼雨』 ©AMC FILM HOLDINGS, LLC

飯塚克味のホラー道 第35回 『魔鬼雨』

 今回、紹介するのは1975年(日本公開は1976年)の『魔鬼雨』。若い人には、どう読むの?と思われそうだが、‟まきう“と読みます。公開時、インパクトのあるモノクロのポスターで、非常に気になっていたが、まだ小学生だった自分は観ることが叶わず、初見は80年代になってレンタルビデオでの鑑賞だった。当時のビデオ時代を知っている人には当たり前だが、テレビのサイズも小さかったあの頃、ビデオに収録される(TV放送も)映画は、両端をカットして、テレビのサイズに合わせるのが普通だった。情報量が極端に減ってしまうのだが、仕方がない。だが、それでもラストに人々が魔鬼雨によって溶けていく地獄絵図は、ホラーブームの当時でも相当インパクトがあり、記憶に焼き付いて離れない一本となったのだ。そんなトラウマ映画が、高画質&特典満載のコレクターズ仕様でブルーレイ化され、先日発売された。

 上映時間はわずか90分弱にも拘わらず、物語は力ずくで進んでいく。父が帰ってこないことを心配するプレストン一家。豪雨の中、突然、父が帰ってくるが、「本をコービスに渡せ」とだけ言い残してドロドロに溶けてしまう。母も連れ去られてしまい、息子のマークは、コービスに会うため、砂漠の中にあるゴーストタウンに向かう。邪教集団のリーダーであるコービスになす術もなく捕らえられてしまうマーク。兄マークが行方不明になったことを知った弟のトムは、ゴーストタウンへと向かう。

 コービスを圧倒的なカリスマを持って演じるのは名優アーネスト・ボーグナイン。『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)や『北国の帝王』(1973)『ニューヨーク1997』(1981)など強面を活かしたキャラで一度見たら忘れられない名優だ。彼に対峙するマーク役には『スター・トレック』シリーズのカーク船長でおなじみのウィリアム・シャトナー。最近、宇宙に行ったことでも話題になった。そして後半の主役であるトム役にはトム・スケリット。『エイリアン』(1979)のダラス船長や『トップガン』(1986)のバイパー役で覚えている人も多いはず。監督は『怪人ドクター・ファイブス』(1971)シリーズで、マニアには知られるロバート・フュースト。本BDでは音声解説で裏話をたっぷり聞かせてくれる。

 本BDを再生した人は、本編の高画質に驚いたのではなだろうか?なんせ約50年前の映画である。教会のステンドグラスや、コービスの赤い衣装、砂漠を背景にした時の広大なショットなど、本作が本来持つ映画的な魅力にうっとりさせられてしまう。特殊効果もCGなどは無い時代なので、リアルな特殊メイクが大活躍。この時代ならではの素晴らしい技術に目を奪われてしまうはずだ。

 本ソフトは通常の映画に比べ、やや割高だが、それも納得できるだけの充実した特典がたっぷり収録されている。まず封入特典だが、劇場パンフレットの縮刷版。なんと当時は150円だったらしい。そしてプレスシートのレプリカ、解説書も同梱されている。映像特典ではトム・スケリットのインタビュー。彼がどんどんアイデアを投入していたことや、端役で出ていたジョン・トラヴォルタが現場で落ち込んでいたことなどを明かしてくれる。特殊メイクを担当したトム・バーマンのインタビューも面白い。低予算でいかにごまかして作り込んだかなど、本編鑑賞後のお楽しみとしては最高のネタばらしをしてくれるのだ。そして忘れてはいけないのが、1987年にTV放映された際の日本語吹替版の収録。本編が短いこともあって、字幕への切り替えも無し。キャラクターの特徴を生かした声優たちの名演にオリジナル以上の感動が味わえるはず。レンタルビデオで見た自分のような人間には、VHSのジャケットを使ったアウターケースも、懐かしさで胸がいっぱいになった。

 今の時代では決して作ることのできない、70年代ホラー。是非、ご自宅のゆったりした環境で、心ゆくまで楽しんでもらいたい。


人々が溶けていく地獄絵図 今の時代では決して作ることのできない70年代ホラー 『魔鬼雨』

【作品情報】
魔鬼雨 <コレクターズ・エディション> Blu-ray
2023年1月27日(金)
発売元:是空
販売元:TCエンタテインメント
©AMC FILM HOLDINGS, LLC


関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


人々が溶けていく地獄絵図 今の時代では決して作ることのできない70年代ホラー 『魔鬼雨』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

作品一覧