今年、ハリウッドでは一本のリメイク作品が難産の末、完成し、公開されたものの、ヒットには至らなかった。その作品『THE CROW』(2024)は日本公開も決まっていないので、現時点で見ることはできていないのだが、リメイクというのはオリジナルの出来が良ければ良いほど、ファンが多く、作るのが難しい。だからこそ作り手はチャレンジしたくもなるのだろう。今回はそんな結果に終わったビル・スカルスガルド主演のリメイク版『THE CROW』ではなく、その全米公開に合わせて4K UHDリリースされたオリジナル版『クロウ/飛翔伝説』について語りたい。
日本では1994年9月に公開された本作。だが、公開前から本作は呪われた映画として大々的に取り上げられていた。主演のブランドン・リーが、撮影中の暴発事故で亡くなっていたからだ。撮り終えていなかったシーンもあり、そうした場面は、当時の先端技術でもあったCGを駆使し、何とか完成にこぎつけた。ブランドン・リーは、カンフー映画の伝説的スター、ブルース・リーの遺児だ。そのため若い時から注目を浴び、『ファイアー・ドラゴン』(1986)でデビューした後、ハリウッドでも活躍するようになり、ドルフ・ラングレンとの共演作『リトルトウキョー殺人課』(1991)や『ラピッド・ファイアー』(1992)で認められていく。仕事には一切手を抜かない性格だったことは、ブルーレイの特典で監督が語る音声解説からも明らかだ。本作は、そんな彼がいよいよスターダムに登っていくきっかけになるはずだった。それなのにこんな形で亡くなったことに世界中が衝撃を受けた。
本作の原作はジェームズ・オバーによる人気コミックだ。近未来の荒廃したデトロイトで、あるロックミュージシャンのエリックとその恋人シェリーが殺される。一年後、エリックはカラスの持つ神秘の力で復活し、自分たちを殺した無法者たちに復讐を果たそうとする。
話としては非常にコンパクトにまとまった、小さな世界の話になっている。だが、オーストラリア出身のアレックス・プロヤス監督は細部に徹底的にこだわり、周囲のスタッフ、キャストも彼の期待に応えようと必死に努力した結果、唯一無二のダークファンタジーアクションが完成したのだ。ほぼ自主映画のような『スピリッツ・オブ・ジ・エア』(1988)でデビューし、本作と『ダークシティ』(1998)で注目を集め、ウィル・スミス主演の『アイ,ロボット』(2004)でブレイクを果たしたプロヤス監督にとって、本作はまさに一大チャンスだったに違いない。ブランドンが亡くなった時は、絶望して一時、オーストラリアに帰国してしまったそうなのだが、何とか戻ってきて完成にこぎつける。映画はブランドンの死を乗り越えた作品としても高評価を得て、世界中で大ヒット。アメリカだけで予算の4倍の興収を上げている。
今回、リリースされた4K UHDは黒が締まり、荒廃したデトロイトの雰囲気をしっかりと感じられるクオリティになっている。濡れた路面、薄汚れた街並み、屋上で吹き上がる炎など、どれもHDR効果が活きていて、大画面になるほど細部が見えてくる凄まじい画質になっている。音声は5.1chのままだが、銃撃戦など非常にパワフルで、全く問題はない。唯一、残念なのが、旧版BDに入っていた2種の日本語吹替版が未収録だったことだが、特典のボリュームもたっぷりだし、その一点にこだわらなければ、間違いなく買いだ。
読者の中には本作がホラー枠に入るのか?という疑問もあるだろうが、一度死んだ主人公が墓から蘇えり、復讐を果たすというだけで十分、ホラー要素はあると信じている。若くしてこの世を去ったブランドン・リーの勇姿をぜひ、4K UHDで拝んでもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【商品情報】
クロウ-飛翔伝説- 4K Ultra HD+ブルーレイ
6,589円(税込)
(C) Miramax (C) 2024 Paramount Pictures.