女性だけの屋敷に迷い込んだ負傷兵 若きクリント・イーストウッド主演の衝撃作 『白い肌の異常な夜』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

女性だけの屋敷に迷い込んだ負傷兵 若きクリント・イーストウッド主演の衝撃作 『白い肌の異常な夜』
『白い肌の異常な夜<ニューマスター版>』 BD¥7,480(税抜¥6,800)発売中 発売・販売:キングレコード

飯塚克味のホラー道 第77回『白い肌の異常な夜』

 名優、名監督として数々の賞を受賞し、ハリウッドのレガシーとして今も新作を製作中のクリント・イーストウッド。そんな彼が西部劇のアクションスターからの脱皮を図り、何作も組んできたドン・シーゲル監督と新境地に挑んだのが本作だ。

 舞台は南北戦争の時代。南軍が劣勢に追いやられる中、戦闘で重傷を負った北軍の兵士ジョン・マクバーニー伍長は、南部の女子学院の人々により救助される。園長や生徒たちは彼が敵軍の兵士であることに気づくが、放ってはおけぬと手当をし、マクバーニーは一命をとりとめる。そして少しずつ元気を取り戻していくが、今度は女性たちがマクバーニーに思いを寄せてしまう。最初の内は、複数の女性と上手く関係を築いていたマクバーニーだが、その関係が暴露してしまうと、激しい嫉妬の嵐が吹き、危機に瀕してしまう。

 戦時下における抑圧された女性の性と、都合よく生き抜こうとする、ずる賢い男の関係を綴った原作はトーマス・カリナンによるもの。『エアポート』シリーズで知られ、イーストウッドとドン・シーゲル監督とは『マンハッタン無宿』(1968)で組んだプロデューサー、ジェニングス・ラングがイーストウッドに読むよう薦めたのが、本作の企画の発端だ。因みに原作ではマクバーニーは20歳前後の若者の設定だったそうだ。当時のイーストウッドは約40歳なので、かなり開きがある。

 60年代後半から、本作の制作に尽力してきたイーストウッドとシーゲル監督は、1971年に本作を完成させる。だが、アクションスターとして人気が確立していたイーストウッドの主演作を、どう売ったらよいか、スタジオ側は分からず、ロクに宣伝もしないまま映画館に放り出し、興行的に大失敗してしまう。だがこの年、イーストウッドとドン・シーゲル監督は『ダーティハリー』をワーナーで公開し、大ヒットを飛ばす。またイーストウッドが初監督し、ドン・シーゲルが友情出演した『恐怖のメロディ』が公開されたのもこの年だ。

女性だけの屋敷に迷い込んだ負傷兵 若きクリント・イーストウッド主演の衝撃作 『白い肌の異常な夜』
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 イーストウッドのキャリアからは抹殺されたかに思われた本作だが、テレビ放映やビデオ化で次第に再評価され、今ではカルト的な扱いながら、イーストウッドのキャリア上、重要な作品とみる層も多くなってきている。ジャンル的にはホラーなのか?という向きもあるだろうが、鬱屈した女性たちの心理描写や、後半、イーストウッドが受ける恐ろしい仕打ちはまさしくホラー以外の何物でもなく、その怖さがあるゆえに、本作が多くの映画ファンを魅了してきたのは間違いないだろう。

 もしかしたらソフィア・コッポラ監督が2017年にリメイクした『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』をご覧になった人もいるかもしれない。そちらの主演はコリン・ファレル、ニコール・キッドマン、キルステン・ダンストだ。監督でこんなにも変わるかという程、別の作品になっていたので、見比べるのもひとつの楽しみ方だろう。

 今回、リリースされたブルーレイは2Kニューマスター版とのことだが、旧版もクオリティが高かったので、パッと見、大きな違いを見つけ出すのは難しいかもしれない。しかし旧版が片面1層なのに対し、今回は片面2層の50GBになっており、圧縮ノイズが感じられなくなったことは大いに評価したい。また特典面では生徒の一人を演じたメロディ・トーマス・スコットのインタビューとドン・シーゲル監督とイーストウッドの友情に迫った7分弱の映像、評論家による音声解説と、予告編だけだった旧版より、かなり充実したものになっている。

 本作が好きな人なら、間違いなくゲットすべき1枚だと思うし、イーストウッドのことをもっと知りたいと思う、若い映画ファンにとっても貴重な資料となるだろう。大昔の映画だからと敬遠せず、是非手に取って、チェックしてほしい。

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女性だけの屋敷に迷い込んだ負傷兵 若きクリント・イーストウッド主演の衝撃作 『白い肌の異常な夜』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
『白い肌の異常な夜<ニューマスター版>』
BD¥7,480(税抜¥6,800)発売中
発売・販売:キングレコード

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