『ゲット・アウト』(2017)と『アス』(2019)の大ヒットで、一躍、ヒットメーカーに躍り出たジョーダン・ピール監督。人種差別や格差と言った社会問題を、エンタメとして我々に突き付け、新たな観客層を掘り起こすことに成功している。3年ぶりの新作『NOPE/ノープ』では、未確認飛行物体というオーソドックスな素材を今風にアレンジしてくれている。
しかし本作、予告編だけではさっぱり内容がつかめず、全米公開時はもちろん、その後も、マスコミ試写は基本行わないなど、徹底した秘密主義が取られ、どんな内容かが全然伝わってきていなかった。分かったのは、何となく雲の中にUFOらしき存在を確認できたのと、田舎が舞台になっているということぐらいだ。自分は公開初日に、IMAXシアターで鑑賞したのだが、確かにこれは何も知らずに観た方が楽しめる一本だと思えた。
ネタバレのない範囲で語れる物語はこうだ。父親と牧場を経営するOJ。だがある日、謎の落下物に直撃し、父親は死亡。OJは、その際、雲の中に謎の飛行物体を目にしていた。その後、妹のエメラルドと共に牧場経営を引き継ぐが、エメラルドはその飛行物体を何とか撮影し、ネットでバズらせようと画策する。一方、牧場の近くで開拓時代を再現したテーマパークを経営する元子役のリッキーにも危機が迫る。
主人公のOJには『ゲット・アウト』で主人公を演じ、2020年の『ユダ&ブラック・メシア 裏切りの代償』でアカデミー賞助演男優賞を獲得したダニエル・カルーヤ。エメラルド役には数多くのドラマ作品や映画に出演し、アニメ作品『バズ・ライトイヤー』に声の出演で参加したキキ・パーマーが扮している。リッキーを演じるのは『ミナリ』で注目を集めたスティーヴン・ユァンだ。
撮影には、クリストファー・ノーラン監督の『インターステラー』『ダンケルク』『TENET テネット』で見事な手腕を見せたホイテ・ヴァン・ホイテマ。今回、IMAXカメラを駆使し、フィルム撮影が行われている。広大な渓谷のショットや、飛行物体のサイズ感など、映画ならではの体験ができるので、鑑賞の際はできる限りIMAXで見るべきだろう。
本作で唯一、残念なのが、IMAXサイズでない部分が2.20:1という従来の70ミリサイズを意識しているため、上映用のDCPでは1:85:1のビスタサイズの中に収められている点だ。今のシネコンのほとんどが採用している2.39:1のシネスコサイズのスクリーンだと、上下左右に黒味が出てしまう、いわゆる額縁上映となってしまい、せっかくの映画館体験が残念なものになってしまう。これは『ダンケルク』や『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でも行われていたことなので、是非、関係者には一考してもらいたいところだ。
話を戻そう。UFOが重要な要素として扱われていることから、本作がホラーではなくSFなのではないかと思われる方も多いと思われるが、実際見てみると、スプラッターというほどではないにしても流血シーンや痛々しい場面が用意され、本作が『未知との遭遇』ではないことがはっきりわかるはずだ。ジョーダン・ピール監督が、日本のあるアニメ作品をお気に入りと公言しているとおり、そのテイストがかなり加わっていることも確認できるはずだ。
あと付け加えておきたいのが、パンフレットの出来の良さだ。1000円近くするのに、見開きで写真ばかりみたいなものが多い中、本作のパンフ(880円)は解説、監督&出演者のインタビュー、評論家のレビュー、プロダクションノートなど、いずれも充実の内容。ミニシアター作品のようなデザイン性も優れている。個人的には稲垣貴俊氏のレビューが、内容の理解を促すのに大いに役立った。是非、鑑賞の手引きとして役に立ててもらいたい。
内容的に「あれは一体何だったのか?」という疑問も出てくるタイプの作品ではあるが、大仕掛けの映画を巨大スクリーンで堪能したいという映画ファンの気持ちにしっかり応えてくれる超大作だ。IMAX上映が行われている期間に、早めの鑑賞をお勧めしたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
NOPE/ノープ
2022年8月26日(金)より、全国ロードショー
配給:東宝東和
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