観客が観たいものと一致していないかもしれないが、なんとも愛おしい作品 『ハロウィン THE END』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

観客が観たいものと一致していないかもしれないが、なんとも愛おしい作品 『ハロウィン THE END』

飯塚克味のホラー道 第41回 『ハロウィン THE END』

 2年前に公開された『ハロウィン KILLS』は、ホラー映画として非常に衝撃的な作品だった。殺人鬼マイケル・マイヤーズとは何者なのか?という大きなテーマに挑み、我々の中に潜む憎悪や怒りが生み出した存在と結論付けていたからだ。世の中からそうしたものが消えない限り、絶えずマイケルも復活する。そんな相手をどうやって倒すのか。劇中、マイケルをリンチで痛めつけたメンバーや、ローリーの娘カレンまでも映画のラストで、マイケルの刃に倒れ、ついにローリーとの最終決戦が行われる。そんなラストに続く本作は、ホラーファンの期待を一身に集めた大バトル作品になると誰もが思っていたのではないだろうか?

 だが現実は違った。本作『ハロウィン THE END』は2019年、子守の最中に思いがけない形で、子供を死なせてしまった青年コーリーの悲劇的な事故という、意外なオープニングから始まる。前作と直結しない出来事に多くの観客は戸惑うだろう。この点に関して、製作総指揮も務めた主演のジェイミー・リー・カーティスは「最新映画情報 週刊Hollywood Express」の中のインタビューで、「あれ(『ハロウィン KILLS』のクライマックス)はオペラが最高潮に盛り上がった瞬間。あの続きは描けない」と語っている。

 続くメインタイトルの後、前作の事件から4年後というテロップが流れ、平穏なハドンフィールドの人々の生活が描かれる。シリーズの顔、ローリーもトラップだらけの要塞のような家を離れ、マイケルと戦った日々を振り返る回顧録を執筆中。髪もシルバーから金髪に染め、ウィル・パットン演じる保安官フランクと、ちょっといい感じの関係になっている。同居する孫のアリソンも病院での仕事に精を出している。もはやあの惨劇は過去のものになったかのように。だが、そんな中でも過去を引きずるコーリーには、街の人々から冷たい視線が浴びせられていた。ちょっとしたことがきっかけでコーリーと出会ったローリーは、コーリーをアリソンに出会わせ、若い二人が徐々に距離を縮めていく。

 「全然、マイケルが出てこないし、ホラーじゃないじゃん」と誰もが思うだろう。実は自分もそう思っていた。恐らく監督のデヴィッド・ゴードン・グリーンの関心は、惨劇を乗り越えて、ハドンフィールドで生きる人々のその後にあったのではないだろうか?監督の2017年作『ボストン ストロング ~ダメな僕だから英雄になれた~』も、テロ事件で両脚を失った青年が再起する話だったが、そんなイメージがちらつくのである。

 もちろんそれも大事なことだが、それだけではホラー映画と言う商品にならない。中盤になり、いじめっ子たちに橋から落とされたコーリーは、下水道内でマイケルと出会う。ここから一気にホラータッチにギアが入り、コーリーの瞳に何かを見たマイケルは、コーリーを仲間にし、殺人の共犯者へと育て上げていく。前半ではやや浮かれ気味に見えたローリーも、コーリーの凶悪さに気づき、戦闘モードへと突入していく。

 クライマックスは、観客の期待通りのバトルを見せるものの、前作に比べると恐ろしく地味な展開で、派手さを期待した観客は大きな肩透かしを食らうだろう。監督が描きたいものと、観客が観たいものが一致するというのは、実はなかなか難しいものだが、本作もそうなってしまったのかもしれない。

 だが本作が駄作、凡作かと言われると、必ずしもそうとも言えないのだ。マイケルの命運は本作で一応の決着をつけられるが、いつかまた復活するだろう。その頃には、これまでのシリーズ作で復活してきたローリーは、もういないかもしれない。マイケルと言う存在は姿かたちを変え、復活するだろうが、人の命は限りあるもの。残された時間を有意義なものに変えていくのも、人としての務めだろう。前作でマイケル・マイヤーズとは何かを描いた監督は、本作で、愛すべき登場人物たちに光り輝く未来を与えてくれたのではないか。そう考えると、本作が愛おしい存在に思えなくはないか?

 昨年の全米公開では、ダークホースの『スマイル』に苦戦を強いられた本作だが、日本では果たしてどうなるか?1回観ただけでは分からない魅力にファンが気付いて、また足を運んでくれることを心から願いたい。

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観客が観たいものと一致していないかもしれないが、なんとも愛おしい作品 『ハロウィン THE END』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ハロウィン THE END
2023年4月14日(金)、TOHOシネマズ 日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
©2022 UNIVERSAL STUDIOS

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