若い映画ファンには、ほとんど伝説化していて実際の作品を観ていないという人もいるだろうが、2007年にクエンティン・タランティーノ監督が、ロバート・ロドリゲス監督と共に作り上げた『グラインドハウス』という作品がある。個々の作品というよりは、2つの作品を繋ぎ合わせ、存在しないけれどいかにもありそうな映画の予告編数本を間に挟み込んだ、一種のイベント企画だ。急速にデジタル化が進む中、タランティーノがかつての二番館三番館で体験した、高品質ではないけど、忘れ難い最高の映画体験を再現したものだ。映画本編は傷だらけ、安易な企画を映画化した予告編など、3時間に及ぶ上映時間ながら、昔を知る人は大いに懐かしく感じ、デジタル世代の若者には新鮮に感じられる最高の時間を与えてくれた瞬間だった。
そして、その後、個々の映画は『デス・プルーフin グラインドハウス』（2007）と『プラネット・テラー in グラインドハウス』（2007）というタイトルで公開され、幕間に入った予告編の一本も同じキャストを使い『マチェーテ』（2010）としてちゃんとした映画になった。あの熱狂から早16年が経ち、当時を忘れ始めた頃、その予告編の一本だった『感謝祭』が『サンクスギビング』として、当時、予告編を作ったイーライ・ロス監督自身の手によって長編映画化されたのだ。
この長編化にあたって、イーライ・ロス監督は、ある裏設定を設けた。『グラインドハウス』内で上映された『感謝祭』の予告編は『サンクスギビング1980』というもので、その衝撃的な内容からプリントはすべて処分され、予告編だけが残っていた。そして今回の『サンクスギビング』は、その予告編を基に作られたリブート版だと言うのだ。イーライ・ロス自身も予告編を作っている時点では、ストーリーなど考えず、感謝祭を舞台にした虐殺ホラーという、いわばノリで作ってしまったがためにストーリー作りには苦心したと語っている。
その話とはこうだ。1年前、マサチューセッツ州のある街で、感謝祭の翌日に行われるブラックフライデーのセールのため、量販店に大勢の人が押し寄せ、店になだれ込んだ人々が暴動を起こし、大勢が死傷する事件が発生した。そして現在、あの事件を忘れようとし、再び感謝祭が近づいてくる街に、謎のマスクを被った殺人鬼ジョン・カーヴァーが現れる。地元の高校生グループたちが、彼からインスタグラムにタグ付けされたことで、更に恐怖は広がっていく…。
イーライ・ロスの映画の特徴は、映画の中でものすごく残酷なことが行われていながら、あえてリアリティを排除し、作り物と強調しているところだと自分は思っている。そのため、そこを理解しない人には、『キャビン・フィーバー』（2002）も『ホステル』（2005）も『グリーン・インフェルノ』（2013）もとても恐ろしい映画に思えてしまうのだが、ある程度、ホラー映画慣れしている人たちには理解してもらえるはずだ。実際、監督も「とっても怖くて楽しいですよ」とメッセージを送ってくれている。
本作を観ていると、映画作りを心から楽しみ、どんなやり方で観客を驚かそうかと、ニヤニヤしているイーライ・ロスの表情が浮かんで困ってしまった。『イングロリアス・バスターズ』（2009）でブラッド・ピットの相棒的な役で出演しているイーライ・ロスは、もちろん本作にも出演をしている。どんな役で出ているかは是非、本編でチェックしてほしい。
日本での公開は始まったばかりだが、実はすでに続編製作も決定したと配給元のソニー・ピクチャーズからアナウンスされている。まずは本作を劇場で観て、来る続編を心待ちにしてほしい。
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飯塚克味（いいづかかつみ）
番組ディレクター・映画＆DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』（毎週土曜日放送）の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA！』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD＆動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター６ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
サンクスギビング
2023年12月29日（金）全国の映画館で公開
