今回紹介するのは、2010年に日本で公開されたゾンビ映画。なぜか今になってブルーレイ化されたのだが、これを出したいと思っていたメーカーの担当者の気持ちも分かるような快作なのだ。製作国はノルウェー。どこの国でも物好きはいるものだと感心してしまうが、同時にこれほどのパワーを秘めた映画を作るクリエイターの力量にも大いに驚かされるはず。今回、久々に見直して、CGに頼らない特殊効果を駆使した映画の素晴らしさを改めて感じた。
物語は正に王道。バカンスを使って、人里離れた雪山にある山小屋で過ごそうとやってきた医学生の男女数名。楽しく過ごすはずが、山に眠っていたナチスのゾンビたちに襲撃され、一人また一人、命を失っていくというもの。80年代ホラーによく見られたオーソドックスな展開なのだが、ゾンビに襲われる中、「海に行けばよかった」など気の利いたセリフと、低予算でもかけるところにはキチンとお金をかけた結果、見応え満点の傑作ホラーコメディに仕上がっている。
監督は本作の高評価を受け、その後、ジェレミー・レナー&ジェマ・アータートン共演の『ヘンゼル&グレーテル』(2013)、ノオミ・ラパス主演の『セブン・シスターズ』(2016)など活躍の場がハリウッドに移ったトミー・ウィルコラ。出演者はメイキングで「ギャラが最安の俳優を集めた」と言われている通り、無名の俳優ばかりだが、雪山で血まみれになりながらも熱演を繰り広げた勇姿には拍手を送りたい。
実は映画史的にはごくごくわずかだが、ナチス・ゾンビものというジャンルがある。有名なところではトラッシュムービーの雄、ジャン・ローラン監督の『ナチス・ゾンビ/吸血機甲師団』(1981)。また最近では、やや変化球ではあるものの『武器人間』(2013)や『オーヴァーロード』(2018)といった作品もあった。本作ではヘルツォーク大佐という人物が軍団を引き連れているが、不気味さと滑稽さが入り混じった屈指のキャラクターになっている。
この映画、小ネタはたくさん散りばめられているが、メンバーの中にいる映画オタクのキャラがいい味を出していた。小屋に向かう途中、映画の話ばかりして、仲間から「映画の話は1時間禁止!」と言われたかと思えば、小屋に着いてからはピーター・ジャクソン監督の『ブレインデッド』(1992)のTシャツなんかを着たりしている。そんな彼が無残な最期を遂げるのもこのジャンルならではのギャグのひとつと言えよう。また他にもサム・ライミ監督の『死霊のはらわた』(1981)など名作ホラーへのオマージュが仕掛けられているので、そうした個所を探すのもホラー通なら楽しいはずだ。
今回のブルーレイ化で、DVDの時はモヤっとしていた山の木々の立体感や、雪と曇り空の境界線などが、はっきり見えるようになり、一段階、映画のレベルが上がったように感じられた。またノルウェー語の5.1ch音声が大迫力で、音楽のサラウンド効果が抜群によくなっている。特典映像もメイキングを始め、音響や特殊メイクに迫った映像や、上映時の反応も見られるサンダンス映画祭の様子など、ボリューム満点。これぞブルーレイと呼べる密度の濃い商品として薦めたい。
もし本作を気に入って頂けたら、もう一本、観てもらいたい、というか観なければいけない作品がある。それは本作の続編である『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』(2014)だ。同じ監督が、本作の直後から始まる内容で描く続編なのだが、これがまたスゴイ。日本では何か事情があったのか、製作から遅れること6年、2020年にようやく公開され、BD化されたのだが、前作以上のエグイ描写とギャグセンスに卒倒間違いなしの一本になっている。併せて楽しんでもらいたい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
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