ラオスの森で憎しみあうムラブリ族 日本の言語学者が対話の力で融和をもたらす 「森のムラブリ」特報

映画スクエア

 3月19日より劇場公開される、タイのムラブリ族を追ったドキュメンタリー映画「森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民」の、特報映像が公開された。

 公開された特報映像では、バナナの葉で家を作りノマド生活を送るムラブリ族の姿や、言語学者の伊藤雄馬が対話の力で部族間に融和をもたらす様子などが切り取られている。

 「森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民」は、金子遊監督が、6カ国語を自由に話し、文字のないムラブリ語の語彙を収集する言語学者・伊藤雄馬とともに、足かけ2年をかけてタイのムラブリ族を追ったドキュメンタリー映画。ムラブリ族は、バナナの葉と竹で寝屋をつくって野営し、平地民から姿を見られずに森のなかを遊動して生活する少数民族。伊藤はラオスで狩猟採集を続けるグループへの接触を試み、ムラブリ族の謎めいた生活の撮影を、世界で初めて成功したという。

 映画内では、ムラブリ族は言語学的に3種に分けられることが判明し、お互い伝聞でしか聞いたことのない別のムラブリ族同士が初めて会う機会を創出する。また、今は村に住んでいるタイのムラブリ族の1人に、以前の森の生活を再現してもらうなど、消滅の危機にある貴重な姿がカメラに収められている。

 本作に出演し、現地コーディネーターや字幕翻訳を務めた、言語学者・伊藤雄馬のコメントも公開された。コメントは以下の通り。

■伊藤雄馬コメント

「『黄色い葉の精霊』を研究してるって、それ、本当にいるのかい?」
現代でも伝説的な存在である黄色い葉の精霊、ムラブリ。
その名前の由来である森での遊動生活については、100余年の間、民族誌のみの語るところだったが、今後はこの映画が語り部の役を担うだろう。

確認されている全ての方言を網羅する本映像は、「ムラブリ語の響きが美しいから」という非学術的な動機で研究を始めた私をして、学術的価値の高さを指摘せざるを得ない。

集団間の邂逅も本映像の主格に相当する。
生まれて初めて出会う彼ら彼女らが、お互いの言葉の近さや遠さに驚きながら、接点を探る相互行為は、しかし辿々しいものでは決してなかった。
どんな集団でも、分断があり、統合がある。この邂逅は、過去にもあっただろうし、未来にもあるだろうことに気づいた。
その点において、分断と統合の交差するあの場面は、ムラブリという民族の普遍を見出す格好の資料であろう。

ラオスの森で憎しみあうムラブリ族 日本の言語学者が対話の力で融和をもたらす 「森のムラブリ」特報

【作品情報】
森のムラブリ インドシナ最後の狩猟民
2022年3月19日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
©幻視社

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