死者とのコンタクトを快感と思う若者たちを襲う恐怖 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

死者とのコンタクトを快感と思う若者たちを襲う恐怖 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

飯塚克味のホラー道 第70回『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

 若者たちが集うパーティで、ついついノリに合わせてやってしまう肝試し。でもこれが本当にあの世とこの世の境界を行き来するような、きわどいものだとしたら?本作は、そんな若者あるあるを、見事なまでに現代的な感覚で描いた傑作ホラーである。

 テーブルに置かれた片腕の石膏像。それに握手をして「トーク・トゥ・ミー」と語りかけると、目の前に亡者が現れる。その霊に憑依された人物は、亡者に乗っ取られ、彼らの言葉を口にする。

 そんな設定の本作だが、驚かされるのは、死というものに対する若者たちのあまりにも軽い感覚だ。体験者は最初こそ、恐怖におののくが、すでに経験者である周囲の仲間たちは、お気楽極楽状態。スマホのカメラを向け、生配信に勤しんでいる。彼らは憑依された人物の状態が面白くて仕方ない。以前、紹介した『ベネシアフレニア』(2021)でも、目の前で殺人が行われてもそれをショーと思って、カメラを向ける観光客たちのシーンがあったが、これはかなり異なるものだ。その姿に寒気を覚えるのは、自分がもはや完全に彼らの世代ではなくなったということなのか?だがこうした若者のリアルな描写が全米のヒットにつながったのは間違いないと思われる。

死者とのコンタクトを快感と思う若者たちを襲う恐怖 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

 昔、キーファー・サザーランドやジュリア・ロバーツらが出演した『フラットライナーズ』(1990)という映画があった。その中では死に興味を持った医学生たちが、進んで仮死状態になり、蘇生可能な時間で生還し、その間、何を見たかを語り合っていたのだが、そんな作品でも死者に対する敬意や、死に対する恐怖は失われていなかった。もちろん本作の登場人物たちも、死や死者を軽く扱ったことに対して、しっぺ返しを食らうことになるのだが、それがどんな悲惨な結果を招くか、スクリーンから目が離せなくなるのは必至だろう。

 こんな新しい感覚の恐怖映画を作り上げたのはオーストラリアの双子YouTuber、ダニー&マイケル・フィリッポウ。本作を作るきっかけとなったのは、近所の子どもたちのある実験だったそうだ。ドラッグを試し、床で痙攣する仲間を、周囲の子どもたちは笑いながらビデオで撮影していたそうで、その時に感じた怖い感覚が映画を作ることにつながった。今の日本でもオーバードーズという市販薬の過剰摂取をすることが問題になっているが、本作はそうした現象と合わせ鏡になっているようにも思える。

 本作の全米配給を手がけたのは、またかと言われそうだがA24。サンダンス映画祭での上映を機に、猛烈アピールがあったと監督が語っている。また監督自身も撮影中、「A24っぽいよね」とか、編集でも「A24ならこの映像を長めに残すよね」とジョークを飛ばしていたそうなので、相思相愛の結果と言えるだろう。結果、世界中の注目を集めることにつながったのだから、正にウィンウィンの関係だ。フィリッポウ兄弟の次回作は本作の続編にあたる『Talk 2 Me』、そしてあの有名なゲームの実写版『ストリートファイター』ということなので、今後が楽しみでしかない。

 現代の若者たちの恐るべき感覚を、えぐり出すようなタッチで描いた『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』。ホラー好きにとっては最高のクリスマスプレゼントと言える一本だ。

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死者とのコンタクトを快感と思う若者たちを襲う恐怖 『TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
TALK TO ME/トーク・トゥ・ミー
2023年12月22日(金)丸の内ピカデリー、新宿ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ギャガ
© 2022 Talk To Me Holdings Pty Ltd, Adelaide Film Festival, Screen Australia

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