筆などを使わず手で直接キャンバスに描く ロッカクアヤコと浮世絵職人のコラボ 「バレンと小刀」本編映像

映画スクエア

 2025年10月10日より劇場公開される、「≒草間彌生 わたし大好き」「氷の花火 山口小夜子」の松本貴子監督最新作「バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語」から、絵師を務めるロッカクアヤコとアダチ版画研究所の職人たちのコラボレーションの様子を捉えた、本編シーンの一部が公開された。

 公開されたシーンでは、筆などを一切使わず、手で直接キャンバスに描くロッカクの創作風景が映し出されていく。ロッカクは「雲がだんだんと形を変えていくようなイメージで浮遊感のある動きを手だと出しやすい」と語り、背景の色彩はあふれ出るように動きを増し、みずみずしい色彩世界を繰り広げていく。このロッカクの作品を目の当たりにした職人たちは、どのように木版画で浮世絵に仕上げるのか、試行錯誤する。彫師の岸千倉は「北斎や広重だと伝統的な形式がありますが、今回のロッカクさんのスタイルがきちんと出るような方法を探さないといけない。浮世絵の王道のやり方とは違うところが、難しいですね」と語る。

 「バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語」は、江戸の浮世絵技術を現代まで受け継ぐ「アダチ版画研究所」による一大プロジェクトのドキュメンタリー。“絵師”を務める個性豊かな世界で活躍する現代アーティストの作品を版画にしようと奮闘する、“彫師”と“摺師”ら職人たちの仕事ぶりを追う。監督は松本貴子。ロッカクの指先から生まれる色の重なりや、草間の迷いのない筆使いを超クローズアップで撮影する一方、男性中心だった世界に若い女性職人が増え、地方在住でも子育て中でも摺師の仕事は両立可能という現実も描き出している。

筆などを使わず手で直接キャンバスに描く ロッカクアヤコと浮世絵職人のコラボ 「バレンと小刀」本編映像

筆などを使わず手で直接キャンバスに描く ロッカクアヤコと浮世絵職人のコラボ 「バレンと小刀」本編映像

 一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。

■いとうせいこう (作家・クリエーター)
浮世絵という「絵師、彫師、摺師、そしてプロデューサーとしての版元」が作り出す総合芸術の各作業を丁寧に追い、現代の世界的絵師たちとのタッグマッチの過程を映し出す。
確かに蔦重が今いたら、こんな浮世絵を生み出していたかもしれない。

■角野栄子 (児童文学作家)
ロッカクアヤコさんの女の子は何て名前?
知りたい!いつも名前で呼びたい!
大きな目を雲間から覗かせて、びっくりしているような、微かにおどおどしているような。そんな鼓動が聞こえてくる。
元気はつらつ、なんでも来い!っていうのじゃないのが愛おしい!
初めて覗いた世界。でも目はしっかりと開いてる。
飛び出していくのね。境界の向こうへ!
この度、伝統ある彫師・摺師により、ロッカクアヤコさんの作品が版画となって、この令和の世に飛び出しました。鮮やかな雲に乗って! 
現代の浮世絵の誕生です。身近に出会える、それは大きな喜びです。

■鉄拳 (芸人・パラパラ漫画家)
これはとても興味深く面白い映画です!
僕も大河ドラマ「べらぼう」に出させて頂き、浮世絵を勉強するまでは、墨で絵を描いてその上に色を塗るだけだと思っていました。
それまでは何気なく見ていた浮世絵。
絵師と彫師と摺師。こんなにも手間がかかっているなんて。
そして、世界アーティストとのコラボではどの様に浮世絵にするのか?
細かく線密な彫師さんの作業と、悩みながらも果てしなく摺り直す摺師さん。
試行錯誤しながら完成した作品は、見たことのない新しい世界の浮世絵でした。
浮世絵の見方が変わります。今こそ是非見てほしい作品です!

■成相肇 (東京国立近代美術館 主任研究員)
それぞれの技術に沿って研ぎ澄まされた手の動きに目を奪われ、かすかな呼吸に耳を奪われる。浮世絵は判断のリレーだ。
絵師の手を彫師が解釈し、その手を摺師が解釈し、その手を絵師が解釈する。すべての技術は、いつも美しい。

■堀口茉純 (歴史作家・歴史タレント)
「コスパ?タイパ?なにそれ、美味しいの?」といわんばかりのアーティストと職人たちが創り出す、浮世絵版画の世界。
生成AIが到達できない芸術領域がそこにある。
人類に勝機はまだある。そう感じさせてくれる映画でした。
浮世絵ファンはもちろん、ものづくり界隈にも是非見ていただきたいです。

■春画―ル (春画愛好家)
わたしは会社員の傍ら、春画の発信や執筆活動をしています。
働く職場は20〜30代が多く、みな現代アートやマンガなど、新しいもの好き。
浮世絵にもっと触れてもらうにはどうしたらいいのか、そのひとつのアイデアは現代美やエネルギーと融合させること。
以前、目白にあるアダチ版画さんで摺師の実演を見学したことがあります。
滑らかで迷いなく生み出されていく浮世絵は素晴らしかったです。
プロフェッショナルたちの情熱をぜひ劇場で観てください。
耳が、目が癒されることでしょう。

■とに~(アートテラー)
色彩やタッチ、グラデーションといった、現代アーティストの作品の絶妙なニュアンスを、木版で再現すべく奮闘する彫師や摺師の熱き挑戦のドラマ。
正直なところ、鑑賞中に何度か、「コピー機でよくない?」と思ってしまいましたが、完成した浮世絵を観て“コピーでは写らない美しさ”というものがあることを知りました。

■矢田部吉彦 (前東京国際映画祭ディレクター)
浮世絵の芸術と技術を継承する若き職人たちが、現代アートの先鋭的なアーティストたちと共同で創作に取り組む過程がたまらなくスリリングだ。
アートの刺激とその背後にいる人間の姿が合わせて浮かび上がってくるようで、つまりこの映画そのものが松本貴子監督による浮世絵なのだ。
素晴らしい。

【作品情報】
バレンと小刀 時代をつなぐ浮世絵物語
2025年10月10日(金)角川シネマ有楽町ほか全国順次公開
配給:Stranger
©2025「バレンと小刀」製作委員会

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