4Kで完全復活 若き巨匠スピルバーグが描く、元祖あおり運転の恐怖を描くサスペンスホラー 『激突!』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

4Kで完全復活 若き巨匠スピルバーグが描く、元祖あおり運転の恐怖を描くサスペンスホラー 『激突!』
『激突!』 4K Ultra HD+ブルーレイ: 6,589 円 (税込み) 発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント

飯塚克味のホラー道 第67回『激突! 4K UHD』

 ある程度の映画ファンなら観ているはずだし、もし観ていなくてもタイトルだけは聞いたことがあるはずの『激突!』。言うまでもなくスティーヴン・スピルバーグが若干25歳の時に作り上げたサスペンスホラーの名作だ。ごく普通の男が、ハイウェイ(といっても田舎の一本道)で、トラックを追い抜いたことで始まる不条理なあおり運転の恐怖を描いている。シンプルな設定の中にも、次から次へと見せ場が連続し、『JAWS/ジョーズ』(1975)以前のスピルバーグの天才的な才能を垣間見ることができる。特にトラックの運転手が姿を見せないことはホラー色を強くしている。

 そしてこれも周知の事実だが、本作は元々テレビ用に作られたものの、あまりの面白さにアメリカ以外の国では劇場公開されている。この映画が公開された時と同時に始まったフランスのリゾート型映画祭であるアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭では、栄えある第一回のグランプリに輝いた。後にこの映画祭で同賞を受賞した作品が『キャリー』(1976)、『マッドマックス2』(1981)、『ターミネーター』(1984)などであることからも、そのエンタメとしての完成度の高さが分かってもらえるはずだ。

 この映画の幸運なことは、それだけではない。当時のアメリカではテレビ映画と言えども、35ミリフィルムを使い、劇場作品同様のクオリティで撮影が行われていた。大元のクオリティが高かったので、先に述べた海外での劇場公開はもちろん、今日に至っても他の作品に見劣りしない映像ソフトがリリースされ続けているのである。

4Kで完全復活 若き巨匠スピルバーグが描く、元祖あおり運転の恐怖を描くサスペンスホラー 『激突!』
(C)1971 Universal Studios. All Rights Reserved.

 2004年にリリースされたDVDではドルビーデジタルとDTS音声による5.1ch化が行われ、劇場映画さながらの大迫力のサラウンド音声を手にし、2014年にブルーレイ化された際は、当時の最新技術でHD化。16:9のワイドフレームに合わせた映像で収録されたこともあり、大画面を生かした構図で撮影されたことが再確認できた。また吹替の愛好家が多い日本では、2017年に「ユニバーサル思い出の復刻版」として穂積隆信が主人公の声を演じた日曜洋画劇場版の日本語吹替版を収録したブルーレイも発売された。

 そして、その究極の形とも言える4K UHDが先日、世界で一斉にリリースされた。4Kでレストアされた映像は、とても50年以上前に撮影されたものとは思えないレベルで、高色域により、濃密な再現が行われ、もはやテレビ映画の次元を超越したレベルだ。主人公が乗る車の赤は、広大なアメリカの風景の中でひときわ目を引くようになった。またトラックの錆びついた感じ、特に前方の色が剥げた部分が、手負いの野性動物のような凶暴さを表し、後方からあおってくる場面では、主人公が感じる恐怖感が倍増している。ブルーレイと見比べてすぐ分かるのは、白飛びの少なさだ。ブルーレイが出た当時は、高画質と感じていたのだが、4K UHDと比べると、かなりの部分が白く飛んでしまっていて、情報量が欠落してしまっている。一度、4K UHDを目にしてしまったら、もう元には戻れないだろう。

 あと付け加えておきたいのが、ドルビーアトモス音声の鮮度の高さだ。トラックの威圧的なエンジン音や、踏切で停車していたらいきなり後ろから押し出される場面など、以前の5.1chから大幅にパワーアップしているのが分かるはずだ。今回、音声をどのように作り直したのかは不明だが、同じユニバーサルの『サイコ』(1960)の特典に音声メイキングがあり、同等の修復によるリミックスが行われたと思われる。それによるとデジタル技術で完成した音を分解することが可能になり、このことで、必要な効果音を増幅し、移動感なども明瞭にすることができるそうだ。よく5.1ch化の際に銃弾の効果音が付け足されて、オリジナルの雰囲気が台無しになるような記事も目にすることがあるが、そうした印象はないので安心してほしい。

 新たな特典として嬉しかったのが、74分のテレビ版が収録された点だ。4:3のスタンダードサイズになっているので、テレビの洋画劇場などで観ていた世代のファンには、こちらの方が親しみやすく感じられるかもしれない。どんなところがカットされていたのかも、チェックしたいはずだ。同梱されているブルーレイは、「ユニバーサル思い出の復刻版」のものなので、吹替ファンも納得のはず。是非、大巨匠の野心作を、4Kの超高画質で堪能してもらいたい。

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4Kで完全復活 若き巨匠スピルバーグが描く、元祖あおり運転の恐怖を描くサスペンスホラー 『激突!』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
『激突!』
4K Ultra HD+ブルーレイ: 6,589 円 (税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
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