ファンタ的ジャンルミックス&ラストには爽やかさも 「ブラック・フォン」【飯塚克味のホラー道】

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著者名:飯塚 克味

ファンタ的ジャンルミックス&ラストには爽やかさも 「ブラック・フォン」【飯塚克味のホラー道】
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飯塚克味のホラー道 第22回「ブラック・フォン」

 ここ最近、ブラムハウス・プロダクションズの快進撃が止まらない。『透明人間』『ザ・スイッチ』『ハロウィンKILLS』の大ヒット、今年も『フォーエバー・パージ』『炎の少女チャーリー』と公開作が相次ぎ、配信作も含めると数字はさらに膨らむ。そして新たに登場するのが、『地球が静止する日』『ドクター・ストレンジ』でメジャー級になったスコット・デリクソン監督による本作だ。

 舞台となるのは1978年。コロラド州デンバー北部の小さな町で、子どもの連続失踪事件が起こり、気の弱い少年フィニーも、黒い風船を持つマジシャンだという男に捕まってしまう。地下室に閉じ込められたフィニーは、つながってない黒電話が部屋にあることに気づくが、ある時、その電話が鳴り、不思議な声が届くようになる。

 話だけ聞くと、スリラーとホラーのミックスという感じだが、本作にはそれだけでは収まりきらない魅力が、山のようにある。フィニーが誘拐されるまでは、彼の日常を丁寧に描写し、野球でピッチャーをした後は、ロケットの実験をするなど多方面に興味があることが語られるし、フィニーの父親が、どうやらベトナム戦争の帰還兵らしく、心に病を抱えていることも匂わしている。またフィニーの妹グウェンは予知夢を見ることができ、母親から受け継いだらしいその能力が劇中、何度も出てくる。フィニーが電話でつながる霊的な存在との関係も、普通のホラーでよく見るものとは異なっていて、ユニークな設定になっているのだ。語ることがこれだけ多くなったら、流れが悪くなることもあり得るが、本作では極めて自然に、フィニーの日常に気持ちが入っていくような作りになっている。

 また時代設定が、監督自身が子どもだった頃なので、フィニーが友人と映画について話す時、『悪魔のいけにえ』や『燃えよドラゴン』のタイトルが出てきて、「親に連れてってもらった。最高だったぜ」「ウチは親が連れていってくれないから、テレビで放送しないかなぁ」など、その時代らしいリアルな会話が繰り広げられたりもするのも何とも楽しい。その一方で、子どもたちのケンカやいじめの描写は幽霊以上に怖いものとして描かれていたりする。フィニーの親友が、いじめっ子とケンカする時はおよそ20発もパンチを食らわして、徹底的に相手をいたぶる。思わず、目をそむけたくなる場面だが、これが後半生きてくるのだから、映画は通して観ないと分からない。

 フィニーを誘拐する連続殺人鬼グラバーに扮するのは、『フッテージ』でもデリクソン監督と組んだイーサン・ホーク。気味の悪いマスクを被って、何を考えているか分からない悪魔的な存在を、振り切ったタッチで演じている。最近は好んで、難しい役に挑んでいる印象だが、本作でも圧倒的な存在感で、映画を引っ張っている。

 エンドロールでチェックしてほしいのが、グラバーの顔を覆っているマスクのデザインを特殊メイクの巨匠トム・サビーニが担当していることだ。ジョージ・A・ロメロ監督の『ゾンビ』や『死霊のえじき』など、70~80年代のホラーに欠かすことができなかったアーティストが健在ぶりを示してくれ、リアル世代のファンとしては本当に嬉しかった。

 様々なファンタ的ジャンルミックスを行い、それでいてラストには爽やかさすら与えてくれる恐るべき一本として、観た人は忘れられなくなるはずだ。是非、冷房の効いた涼しい映画館で、震えあがって楽しんでもらいたい。

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ファンタ的ジャンルミックス&ラストには爽やかさも 「ブラック・フォン」【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ブラック・フォン
2022年7月1日(金)全国公開
配給:東宝東和
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