「スパイラル:ソウ オールリセット」 過去作を見ていても、いなくても楽しめる 【飯塚克味のホラー道】

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「スパイラル:ソウ オールリセット」 過去作を見ていても、いなくても楽しめる 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味のホラー道 第3回「スパイラル:ソウ オールリセット」

 2004年に『ソウ』が公開された時、誰もがその斬新な設定に驚きを隠せなかった。薄汚い部屋に、離れて手錠をかけられた男が二人。彼らの間には一人の死体が横たわっている。二人はなぜ、ここにいるのか?閉じ込めた犯人の目的は?死体は一体何者なのか?密室型のミステリー仕立てであるが、間違いなくホラーでもあるその作品は、瞬く間に世界的ヒットを記録し、その後、7年連続でシリーズ作を発表してきた。罠を仕掛けたジグソウは、彼の代弁者である不気味な人形の姿と共にホラーファンの脳裏に焼き付き、忘れることができない存在となった。ジグソウのユニークなところは、無差別的に若者を殺すジェイソンのようなホラーキャラクターと違い、無実とは言い難い人々を選び抜き犠牲者にしているところだ。またジグソウが知的な存在であることも恐怖のポイントとなっている。とてつもなく頭のいい人物が、自身のモラルのために人々を恐怖のどん底に押しやり、究極の選択をさせる展開は、不条理でありながらも、観る者に奇妙な納得感と爽快感を与えてくれるのだ。

 そんな『ソウ』シリーズが、2017年に作られた『ジグソウ:ソウ・レガシー』以来、4年ぶりに復活。そのきっかけとなったのはシリーズの大ファンでもあるクリス・ロック。彼はライオンズゲートの重役に自ら掛け合い、終わったかと思われていたシリーズを復活させることに成功した。作品を観て、まず感じたのはクリス・ロックの真剣な作品への取り組みぶりだ。コメディアン出身の彼が終始、シリアスな表情を崩さず、暗い過去を背負い、厳しい現実に立ち向かう。クリス・ロックの新境地と言って過言ではないだろう。

 またシリーズ初期のタッチを取り戻すため、『ソウ』シリーズ2作目から4作目までを監督したダーレン・リン・バウズマン監督を呼び戻した功績も大きい。シリーズ1作目の監督、ジェームズ・ワンは『インシディアス』『死霊館』シリーズなどホラーはもとより、『ワイルド・スピード SKY MISSION』や『アクアマン』というメジャー作品まで手掛けるヒットメーカーに成長したし、原案、脚本を担当したリー・ワネルも最近では『アップグレード』や『透明人間』で監督として頭角を現してきている。一方、『ソウ』シリーズを卒業したバウズマンはB級ホラーの監督に留まってきたが、今回、久々に用意された大舞台で、これまでに蓄積された演出手腕を大いに発揮しようと、やる気に満ちているのがよく分かる。このシリーズならではの残虐な殺し方と、ミステリアスなストーリー展開がうまくミックスされ、二度三度見返したくなるディテールへのこだわりが随所に感じられるのだ。

 ストーリーは連続警察官殺害事件が発生、その手口は過去の凶悪犯ジグソウの手法と同様のものだった、というもの。クリス・ロックが演じる刑事ジークは、過去に仲間の汚職を告発したことから、署内で孤立し、あてがわれた若い新人刑事と共に事件の調査を始める。やがてターゲットは前署長でジークの父親でもあるマーカスにも及び、謎を追うほど迷宮が深まっていく。一定の閉鎖空間がメインとなり、回想や外での捜索などが挟まれる従来の構成と異なり、多くのロケーションを使ったことで、ドラマは開放的なタッチで展開されるが、トラップの数々は間違いなく『ソウ』シリーズならではのもの。マーカスを演じたサミュエル・L・ジャクソンの圧倒的な存在感も、映画に重厚感を与えているので、ファンは期待してもらいたい。

 今回の作品の一番の長所は、シリーズを見ていても、見ていなくても、存分に楽しめる点だ。もしシリーズ作を見てなかったら、本作鑑賞後、きっとシリーズを見てみたくなるし、シリーズファンにはニヤリとさせられる描写があちこちに用意されている。タイトルにある「オールリセット」は日本独自に付けたものだが、映画を観れば、その意味もよく理解できるはず。ハロウィンシーズンへ向かう秋口に伝説的な『ソウ』シリーズの復活。ホラーファンにこれ以上のプレゼントはないだろう。


「スパイラル:ソウ オールリセット」 過去作を見ていても、いなくても楽しめる 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


■作品情報
スパイラル:ソウ オールリセット
2021年9月10日(金)全国公開
配給:アスミック・エース
© 2020 Lions Gate Films Inc. All Rights Reserved.

「スパイラル:ソウ オールリセット」 過去作を見ていても、いなくても楽しめる 【飯塚克味のホラー道】

  • 作品

スパイラル:ソウ オールリセット

公開年 2019年
製作国 アメリカ
監督  ダーレン・リン・バウズマン
出演  クリス・ロック、マックス・ミンゲラ、マリソル・ニコルズ、サミュエル・L・ジャクソン
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