著作権切れで、まさかのホラー映画となった『プー あくまのくまさん』(2023)から1年ちょっと、早々と続編がやって来た。前作は、森に置き去りにされたとクリストファー・ロビンに恨みを募らせていたプーとピグレットが、近くにいた人々も巻き込んで殺しまくるD社もビックリの仰天内容。今回は新たに空を飛ぶオウルと、アニメとは似ても似つかないティガーが仲間に加わる。
今回は、前作で生き残ったものの、連続殺人の容疑を町中の人からかけられているクリストファー・ロビンが、何とか病院の職にありつき、疑惑を払いのけようと真面目に勤務するところから始まる。だがプーたちがそんな状況を許すはずもなく、森でキャンプをしていた連中をはじめ、再び虐殺の扉が開かれるというもの。肝心なのは、そこでプーたちの誕生秘話が語られる点だ。
今回、良かったのは前作が思い付きのワンアイデアで成り立っていたのに対し、きちんとしたストーリーが組み立てられ、映画としてのグレードもアップしていることだ。これは原案に『サマー・オブ・84』(2017)で製作を務めたマット・レスリーが加わったことと関係があるのかもしれない。いずれにせよ、前作の成功で製作費も増え、映画の作り方がしっかり整ったのはファンとしては歓迎したいところ。そういえば最後まで見るのが苦痛だった『パラノーマル・アクティビティ』(2007)の製作だったジェイソン・ブラムは、今やハリウッドきってのヒットメーカーに上り詰めているので、本作の製作陣が将来、同様のポジションに就いたとしても、何ら不思議ではない。
前作は、とにかく早く世に出すことを目標としていたのか、わずか10日間で撮影が行われ、映画としての出来もお世辞にも褒められたものではなかった。だがそれが決してスタッフが低レベルだったわけではなく、きちんとした予算と時間を与えれば、プロとしての仕事を全うできる面々だったということが今回、証明されたのだ。
映画としてのグレードが上がったと感じるのは話だけではない。特殊メイクやスケール感にもそれははっきり表れている。プーや森の仲間たちの特殊メイクではかなりアクターたちの表情が反映できるようになっており、怒りが伝わってくる演技が観客にも肉薄してきている。惨殺場面でも趣向が凝らされ、殺される人間の数も前作よりかなり増えている。
もちろん、こういう映画なので、分かった人でないと笑えない要素も満載なので、どうか冗談でも、ホラーに免疫のない、アニメをこよなく愛する友人をだまして誘い込むようなことはしないでもらいたい。因みに本作の製作陣は、「プーニバース」なる、著作権切れのキャラクターたちを続々とホラー化するプロジェクトを企画中なんだとか。『プー』のシリーズ第3作はもちろん、バンビやピノキオもエンドロールに登場し、自分たちを主人公にした映画の出番を待ち構えているようにも見える。本作を映画館で楽しんだ後には、是非、そうしたユニバース作品への期待も高めていってほしい。
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飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
プー2 あくまのくまさんとじゃあくななかまたち
2024年8月9日(金)新宿ピカデリーほか全国公開
配給:アルバトロス・フィルム
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