自分の子どもが亡くなった人の生まれ変わり? 少女を襲う転生の恐怖 『オードリー・ローズ』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

自分の子どもが亡くなった人の生まれ変わり? 少女を襲う転生の恐怖 『オードリー・ローズ』
AUDREY ROSE © 1977 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

飯塚克味のホラー道 第87回『オードリー・ローズ』

 以前、ここで取り上げた『リーインカーネーション』(1975)を覚えていらっしゃるだろうか?自分のものではない記憶に日夜悩まされる男が、その記憶をたどっていく、ミステリー風味のオカルト映画だ。その『リーインカーネーション』が公開されたのが1977年2月、そして今回取り上げる『オードリー・ローズ』が公開されたのが同じ年の9月だった。日本では約半年間隔で公開されたので姉妹編のような位置づけになっているが、実際は輪廻転生を扱っているだけで関連性はない。

 話はこうだ。ニューヨークで一人娘アイビーと幸せに暮らす両親の前に、怪しげな男エリオットがやって来て、「あなたの娘は、交通事故で死んだ私の娘オードリー・ローズの生まれ変わりだ」と強く主張。最初は聞く耳を持たなかった両親だが、アイビーを不思議な現象が襲い、母親のジャニスはエリオットの言うことを信じ始める。だが父親のビルは、どうしても受け入れることができない。険悪になった両者の関係はやがて裁判に発展し、催眠療法を使った公開実験が行われることになる。

 監督のロバート・ワイズは、言うまでもなく『ウエスト・サイド物語』(1961)と『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)で知られる大巨匠だ。だがそれだけではなく、キアヌ・リーヴス主演でリメイクされた『地球の静止する日』(1951)や、やはり『ホーンティング』(1999)としてリメイクされた『たたり』(1963)など、ジャンルを超越した作品を作り続けた。本作もオカルトブーム真っただ中の70年代に製作されたが、いわゆる悪魔憑きとは一線を画す、ドラマ性の高い一本になっている。

 主演は今も新作への出演を続けるオスカー俳優アンソニー・ホプキンス。自分の言うことを信じない人に、説得力を持って訴え続ける謎の男エリオットを真剣に演じている。次第にエリオットを信じていくジャニスはマーシャ・メイソン。名脚本家ニール・サイモンとの名コンビぶりが有名で、70~80年代に圧倒的な存在感を放った。

 原作はフランク・デ・フェリッタの小説。フィクションからノンフィクションの脚本や製作を経て、小説を書き始めるようになった人物だ。本作では様々な調査を行い、製作と脚本も担当。輪廻転生を見事にドラマとして昇華させている。本作の後も心霊現象への好奇心は尽きず、バーバラ・ハーシー主演の心霊レイプ映画『エンティティー/霊体』(1982)の原作と脚本も手掛けている。レイプという言葉に惑わされやすいが、この映画も極めて真剣に霊現象を扱った映画だった。

自分の子どもが亡くなった人の生まれ変わり? 少女を襲う転生の恐怖 『オードリー・ローズ』
AUDREY ROSE © 1977 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

 本作がすごいのは、夜中に暴れ出すアイビーを演じたスーザン・スウィフトの演技力だ。わずか13歳の時に、別の魂に乗っ取られ、半狂乱になる演技をこなしている。すでにベテランだったアンソニー・ホプキンスやマーシャ・メイソンに、一歩も劣らぬ名演を披露しているのだ。役の理解だけでも大変だと思うのに、驚きの才能だと思う。

 筆者が本作を見たのはテレビの月曜ロードショー。映画評論家の荻昌弘が解説をしていた洋画劇場だったが、この時の声優たちの声質をはっきり記憶していたことを、今回収録された日本語吹替版を聞いて再確認した。アンソニー・ホプキンスを田中信夫、マーシャ・メイソンを小原乃梨子、父親役のジョン・ベックを小川真司、スーザン・スウィフトを冨永みーなが演じている。音質は所々こもったようにもなるが、総じてクリアで綺麗な音源なので、是非、吹替版も試してもらいたい。

 特典は原作のフランク・デ・フェリッタとマーシャ・メイソンのインタビュー、ロケ地探訪などがあるが、中でも面白いのが「映画の中の輪廻転生」だ。様々な作品で、どのように生まれ変わりが描かれてきたのかを解説してくれる。これを見ると、他の作品もつい見たくなってしまうだろう。

 この映画、今の価値基準では、やや受け入れがたいエンディングを迎えるのだが、それでも強烈なインパクトをもたらし、観る人に生きることと死ぬことについて考えを巡らせてくれるはず。恐怖指数はそんなに高くないので、ホラーが苦手な人にも是非、観てもらいたい。

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自分の子どもが亡くなった人の生まれ変わり? 少女を襲う転生の恐怖 『オードリー・ローズ』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
『オードリー・ローズ -2Kレストア版-』
Blu-ray発売中
5,500円(税込)
発売元:株式会社ニューライン
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
AUDREY ROSE © 1977 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. All Rights Reserved.

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