ビデオ時代、ジャケット写真だけで売れた伝説のホラー映画 『C.H.U.D. チャド』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

飯塚克味のホラー道 第141回『C.H.U.D. チャド』

ビデオ時代、ジャケット写真だけで売れた伝説のホラー映画 『C.H.U.D. チャド』
C.H.U.D.© 1996 LAKESHORE INTERNATIONAL CORP. ALL RIGHTS RESERVED.

 80年代、ビデオデッキがあっという間にどの家庭にも普及し、それに伴いレンタルビデオ店もものすごい勢いで増加していった。当時の人なら、住む町に数件のショップがあり、財布にレンタル店のカードも数枚入っていたことを記憶しているはずだ。レンタルショップに入るビデオは1本あたり1万5000円程度なので、それが1万店に入荷すれば、簡単に億単位の売り上げになる。入荷するかを決めるのは各店長なので、メーカーは自ずとインパクトのある写真をパッケージや宣伝物に使用するようになり、そんな中、最も成功したと言われるのが本作だった。

 内容はニューヨークの地下に人喰いの化け物が増殖し、夜な夜な、犬の散歩をしている人などを襲っていたという、よくあるモンスターもの。裏では悪徳企業による放射性廃棄物のずさんな処理が隠され、地下に暮らしていたホームレスたちが、その影響でモンスター化していたのだ。

 出演は怪物発見のきっかけになる写真を撮っていたカメラマンに『ホーム・アローン』(1990)のパパ役で有名なジョン・ハード。その恋人の美人モデルに『未来世紀ブラジル』(1985)のキム・グライスト。ホームレスに支援をするインチキ神父にこれまた『ホーム・アローン』の泥棒役で知られるダニエル・スターン。無名時代のジョン・グッドマンも小さな役で出演していて、お得感たっぷりのキャストが揃っている。監督は、劇映画は本作のみで、主に編集マンとして活躍したダグラス・チーク。

 とにもかくにもモンスターのチャドの写真がインパクトあり過ぎな作品だが、この1ショットだけで売れたと言っても過言ではないほど、映画の出来はかなりいい加減だ。今の時代から言うと、それが逆に魅力とも言えるのだが。例えば、シャワーを浴びていたキム・グライストが排水の不具合に気付き、ハンガーを細長くして排水溝をズボズボやるのだが、何かに刺さったのか、血が飛び出し、彼女は血まみれになる。そんな大変なことになったのに、次のシーンでは何事もなかったように普通にしている。

ビデオ時代、ジャケット写真だけで売れた伝説のホラー映画 『C.H.U.D. チャド』
C.H.U.D.© 1996 LAKESHORE INTERNATIONAL CORP. ALL RIGHTS RESERVED.

 また最大の驚きはラストのクライマックスなのだが、ネタバレを承知で書かせてもらうと、警官2名が休憩していたカフェをチャドの群れが襲撃し、現場は血まみれ。そこに地下でチャドの巣窟と隠ぺいの証拠を発見したジョン・ハードとダニエル・スターンがやって来る。隠ぺいの発覚を恐れパニックになった黒幕が警官を撃ち、2人も車で殺そうとするが、ダニエルが警官の銃で黒幕を射殺。マンホールに引っかかった車は大爆発。映画はそこで唐突に終了し、エンドロールが始まってしまう。あの~…チャドはどうなったのでしょう?これが最初から予定されていた通りなのか、予算が尽きたのか、真相を知りたくて音声解説を聞いてみたが、謎は明かされずじまいだった。まあこの時代の未公開作にはよくあることなので、若いホラーファンには逆に新鮮かもしれない。

 因みにギレルモ・デル・トロ監督の出世作で、1997年に作られた『ミミック』が、『チャド』の内容に極めて近く、モンスターの巣窟もしっかり片付けてくれるので、もし『チャド』で満足できなかったら、『ミミック』も観ることを薦めておきたい。『チャド』には、内容的なつながりが全然ない『ゾンビ・パラダイス/ゾンビが街にやってきた!』(1988)、原題は『C.H.U.D.II: BUD THE C.H.U.D.』という珍作もビデオリリースされたが、こちらは全く見る必要がないので、注意してもらいたい。

 特典は監督やダニエル・スターン、2017年に亡くなったジョン・ハードも参加している音声解説、美術スタッフ、特殊メイクスタッフのインタビュー、現在のロケ地ツアー、シャワーシーンのエクステンデッド版などが収められている。チャドの光る眼などをどう作り出したかなど、興味深いエピソードが出てくるので、是非特典も映画本編と共に楽しんでほしい。/p>

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ビデオ時代、ジャケット写真だけで売れた伝説のホラー映画 『C.H.U.D. チャド』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


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