シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作が見せる撮影現場での姿 「旅と日々」メイキング

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シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作が見せる撮影現場での姿 「旅と日々」メイキング

 第78回ロカルノ国際映画祭インターナショナル・コンペティション部門で最高賞の金豹賞とヤング審査員賞特別賞をダブル受賞した、「ケイコ 目を澄ませて」「夜明けのすべて」の三宅唱監督最新作「旅と日々」(上映中)から、メイキング映像、キャスト4名による撮影現場でのコメント映像が公開された。

 メイキング映像は、神津島の夏の風を受けながら、和気あいあいと現場の感想を述べる三宅監督、河合優実、髙田万作の姿から始まる。笑いの絶えない様子に続いて映し出されるシーンでは、三宅監督からの演出を真剣なまなざしで受け止める2人の姿も見られる。

 続いて映し出されるのは、雪深い景色のなか防寒着に身を包み撮影に臨む三宅監督、シム・ウンギョン、堤真一の姿。雪のちらつく極寒での撮影でも、つらさを感じさせない集中力をみせるシムと堤の様子が切り取られている。ラストでは、座長シム・ウンギョンのクランクアップ時のコメントも。「みなさんのおかげで無事に撮影を終えることが出来ました」としみじみと語った後に、「イエーイ!」とみんなを盛り上げるも、直後に恥ずかしそうにぺこりと頭を下げる姿が収められている。

 キャストひとりひとりの撮影現場でのコメント映像では、シムは「『旅と日々』は絆についての映画だと思う」と語り、河合は「三宅さんがなにか新しいことをやろうとしてる感じを受けた作品」と脚本や現場から感じ取った感想を述べている。堤は初挑戦となる東北弁について、「初めて台詞をすべて覚えていきました」と、これまでとは違った現場への取り組み方をしたことを明かしている。オーディションで抜擢された髙田は「皆さんのおかげで すごくなじめているような気がします」と素直な思いを語っている。

 「旅と日々」は、つげ義春の「海辺の叙景」「ほんやら洞のべんさん」を原作に、脚本家の李(シム・ウンギョン)が旅先でのべん造(堤真一)との出会いをきっかけに、人生と向き合っていく過程を李本人がつづる物語。うだつの上がらない脚本家の李は、ひょんなことから訪れた雪すさむ旅先の山奥で、おんぼろ宿に迷い込む。雪の重みで今にも落ちてしまいそうな屋根。“べん造"と名乗るやる気の感じられない宿主。暖房もない、まともな食事も出ない、布団も自分で敷く始末。しかし、べん造にはちょっとした秘密があるようだった。ある夜、べん造は李を夜の雪の原へと連れ出す。

シム・ウンギョン、堤真一、河合優実、髙田万作が見せる撮影現場での姿 「旅と日々」メイキング

 三宅唱監督、シム・ウンギョン、河合優実によるオフィシャルインタビューも公開された。インタビュー内容は以下の通り。

 ――三宅監督とおふたりの出会いからお聞かせください。

三宅唱監督(以下、三宅):シム・ウンギョンさんとは『ケイコ 目を澄ませて』が釜山国際映画祭で上映された時に初めてお会いしました。上映後に「いつかご一緒したいです」と声をかけてくださって。あの時の印象がとても特別で、いつか必ず、と思っていたんです。『旅と日々』の脚本を書いている途中で、ふと彼女がこの役を演じたら面白いに違いないと感じました。
河合さんは以前、別の作品のオーディションでお会いして、すごく印象に残っていました。残念ながらその時はご一緒できなかったのですが、ずっと気になっていた俳優でした。「海辺の叙景」を題材にすることを決めた段階で、脚本がまだ固まる前から声をかけました。

シム・ウンギョン(以下、シム):監督の作品は以前から大好きで、いち観客として尊敬していました。『ケイコ~』にとても感動して「この作品を韓国でも紹介したい」と思い、釜山でお話しさせていただいたんです。『旅と日々』の脚本を読んだ時、まるで自分の話のように感じました。自伝を書くなら、この映画のようになるんじゃないかと。

河合優実(以下、河合):私も『きみの鳥はうたえる』を観たときから、監督の映画の空気がすごく好きなんです。いつかご一緒したいとずっと思っていました。今回、お話をいただいたときは、本当にうれしかったです。脚本を読んだときは、登場人物たちの空っぽな時間の中にある感受性に惹かれました。現場で実際にその時間をで感じながら演じることができました。

――登場人物のキャラクターをどのように捉えましたか?

三宅:生きていると、驚きや変化の中でこそ実感を得られると思うんです。旅や映画も同じで、予想外のことが起きて初めて「生きている」と感じる。ウンギョンさんはその“生の驚き”を、悲しみとおかしみの両方で体現してくれました。

シム:私が演じた李という人物は、大学の授業で「自分には才能がない」と言ってしまう人です。そのセリフがすごく刺さって。私自身も俳優として、足りなさや迷いを常に抱えています。だからこそ、李の勇気――悩みながらも旅に出る決断――に強く共感しました。

河合:監督からは「映画内映画であることは考えなくていい」と言われていました。なので、渚を演じるにあたって、とにかく「そこにいる」ことを大事に、何もしないという挑戦をしていました。それによって、“場所”と“体”が一体になった瞬間にしか生まれない表現があると思いました。

――“言葉”がテーマのひとつですが、言葉による表現をどう思いますか?

シム:普段から、私は韓国語と日本語の両方で演じているので、言葉については常に考えています。セリフが自然に自分の中に馴染むまで、何度も何度も棒読みを繰り返します。そこからようやく感情を乗せられる。今回は日本語での演技を通して、「言葉を自分のものにする」大切さに改めて気づきました。

河合:私はもともとダンスをやっていたので、身体表現からお芝居に興味を持ちました。だから、言葉よりも身体のほうが雄弁だと感じることがあります。言葉にできないことを言葉にしないまま表すことができる――それがお芝居のおもしろさだと思います。

三宅:旅も映画も、先入観が覆されることで豊かになる。言葉も同じで、正確に言い当てようとすればするほど、すり抜けていく。映画ではまず、言葉にならない部分をどう撮るかが、自分の興味でもあります。
――どのような撮影現場だったのでしょうか?

シム:監督は本当に映画が好きな方です。無声映画の話などもよくしました。現場ではあまり細かい指示はなく、俳優一人ひとりの個性を観察して生かしてくれる。段取りの中から自然に生まれた一言が採用されることもありました。

河合:夏の撮影は少人数のチームで島に行って、みんなでご飯を作って、海に出て……まるで合宿のようでした。監督は部活のキャプテンみたいに頼もしくて、繊細さも思慮深さもある方。現場はとても穏やかで、リラックスしていられました。

――みなさんにとって旅とは?

三宅:僕がどこかに行く、としたら出張ばかりなんですが……東京の知らない道をただ歩くのが好きです。何も考えずに歩くことが、自分にとっての旅かもしれません。新しい風景に出会うことで、少しずつ自分の中の水が入れ替わるような気がします。

シム:私は映画館で旅をしています。スクリーンの中で、さまざまな国や人の生き方を体験できる。映画を観ること自体が旅だと思っています。

河合:私は休暇で行く旅も好きですが、印象に残っているのは仕事で行った旅ですね。スペインのバスク地方で短編映画を撮ったとき、言葉が通じなくても人と協力して作品を作った体験は、今でも心に残っています。

――完成した映画をご覧になって、シムさん、河合さん、お互いの演技をどう思われましたか?

シム:河合さんの演技には本当に魅了されました。セリフが少なくても、仕草や佇まいからその人の人生が見える。あの繊細さは素晴らしいです。

河合:私もシムさんの冬編をいち観客として、とても感動しました。最初のひとりの執筆のシーンからもう目を奪われました。ふわっとしているのに、地に足がついている。観ていて幸せになるキャラクターでした。

――『旅と日々』をどのようにご覧いただきたいですか?

三宅:風景や光、俳優の身体が雄弁に語ってくれています。そういう瞬間を、ぜひ観客の方にも感じ取ってもらえたらうれしいです。映画をみた後、言葉や意味を考えることもあると思うんですが、まずは「あっ」という驚きの余韻を、映画館の外を歩きながら楽しんでもらえたらと思います。

シム:この作品は「旅とは何か」「映画とは何か」をもう一度考えさせてくれる映画だと思います。観てくださった方の心の中で、静かに何かが動き出すのではないでしょうか。観たあと、少し散歩したくなるような――そんな作品です。

河合:撮影中は、本当に風や光に導かれるように過ごしました。観客のみなさんにも、映画を観ながら体の力を抜いて、それぞれの「旅」を続けてほしいと思います。

【作品情報】
旅と日々
上映中
配給:ビターズ・エンド
©2025『旅と日々』製作委員会

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