「日本的なものを感じてもらえる」 息子守ろうとする父描く 「旅立つ息子へ」ベルグマン監督インタビュー

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「日本的なものを感じてもらえる」 息子守ろうとする父描く 「旅立つ息子へ」ベルグマン監督インタビュー
(c) Dan Hirsch

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 子育てに人生のすべてをささげた父と自閉症スペクトラムの息子の逃避行を描く映画「旅立つ息子へ」が、3月26日に劇場公開される。本作を手掛けたニル・ベルグマン監督のインタビューが公開となった。

 ベルグマン監督は、1969年にイスラエル・ハイファで生まれ、1998年にエルサレムのサム・スピーゲル映画テレビ学校を優秀な成績で卒業。父親を失った家族の崩壊と再生を描いた「ブロークン・ウィング」と、思春期の心の揺れと大人への抵抗を描いた「僕の心の奥の文法」で、2度の東京国際映画祭グランプリに輝いた(2度のグランプリはベルグマン監督のみ)。長編5作目となる本作は、イスラエル・アカデミー賞で監督賞、脚本賞、主演男優賞、助演男優賞受賞を受賞している。

 このテーマで映画を撮ろうと思ったことについてベルグマン監督は、「自閉症スペクトラムの息子を育てる父親を描いていますが、私はシンプルに“父親”を描きました。私自身、初めて父親になった日に息子を見て、心が震えたからです。この子は世界で一番、おだやかで優しく、壊れやすい存在だと。私は危険な世界から、この子を守れるだろうかと。本作のアハロンも同じことを考えたはずです」と自身の経験を重ねて語っている。

 親子を描く上で監督自身が意識したことについては、「息子を守ろうという父の思いは、国境や文化を越えて共感を呼ぶものだと思います。危険な世界から愛しい誰かを守るというテーマは、身近なものですからね。私は劇中にある“ねじれ”がとても気に入っています。父親は息子のためにキャリアを捨てたのではなく、自分の繊細かつもろい性格ゆえに、子育てという盾を手にして現実逃避したのです。実は息子を利用しているのです。アハロンを苦しめる葛藤は、人生に悩む人々の共感も得られると思います」と、父の愛だけではなく、その裏にある”ねじれ”についても描かれていることを説明している。

 キャラクターのリサーチについては「ウリ役のノアム・インベルと私で、自閉症スペクトラムの人々が暮らす施設へ数カ所出向きました。そこで分かったのは、自閉症スペクトラムはかなり幅広いということです。施設で出会った人々は、それぞれが違い特別だったので、私たちもウリのキャラクターを、特別なものにしようと試みました」と、映画に反映させたことを明かしている。

 本作の参考にした映画については「撮影監督のシャイ・ゴールドマンと、カメラと登場人物との間に、適切な距離感がある作品を参考にしようと話していました。選んだのはケネス・ロナーガン監督の『マンチェスター・バイ・ザ・シー』です。思いやりをもって彼らを観察しているような透明感ある演出に、感銘を受けました。私たちが目指したのは、この方法にならい、登場人物と彼らの関係性によって展開されていく映画でした」とコメント。また、好きな日本の映画について尋ねられると「小津安二郎や黒澤明といった名匠はもちろん、滝田洋二郎監督、北野武監督、そして是枝裕和監督を尊敬しています。イスラエルで最も有名な映画評論家の1人から、本作と是枝監督の作品を比較され、とても誇りに思いました」と語っている。

 本国イスラエルではコロナ禍の影響により、まだ公開のめどが立っていない。そんな中、縁ある日本でひと足先に公開を迎える。最後に、日本の観客に向けて「この映画が上映される瞬間、どれほど皆さんと一緒にいたいか、どれほど皆さんと一緒にこの映画を感じたかったか。私は本当に日本が大好きで、観光客として、また2度もグランプリをいただいた東京国際映画祭に監督として訪日しています。この映画では、日本的なものを感じてもらえると思っていますが、それが何かは私はうまく説明することができません。きっと皆さんの方が、発見し、理解してもらえるものと信じています。この映画を観て、共感して、楽しんでもらえますように願っています。そして近い将来、お会いできる日が来ることを心待ちにしています。その時まで、皆さんと、皆さんの大切な人たちの健康を祈り、一日も早く日常に戻ることを祈っています」とメッセージを送っている。

 「旅立つ息子へ」は、深い絆で結ばれた自閉症スペクトラムを抱える息子と父の2人が、引き離されないため逃避行に出る物語。親としての葛藤、子供への深い愛、やがて訪れる巣立ちの時を描いている。監督を務めるのは、東京国際映画祭で2度のグランプリ受賞を果たした唯一の監督である、イスラエルのニル・ベルグマン。息ウリ役を演じた新人ノアム・インベルは、オーディションでこの役を勝ち取り、自然な姿で複雑なキャラクターを体現している。

【作品情報】
旅立つ息子へ
2021年3月26日(金)TOHOシネマズ シャンテほか全国順次公開
配給:ロングライド
©︎ 2020 Spiro Films LTD.

  • 作品

旅立つ息子へ

公開年 2020年
製作国 イスラエル、イタリア
監督  ニル・ベルグマン
出演  シャイ・アヴィヴィ、ノアム・インベル、スマダル・ヴォルフマン
作品一覧