主婦とストーカーが対決するスーパーバイオレンスホラー  『DOOR デジタルリマスター版』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

主婦とストーカーが対決するスーパーバイオレンスホラー  『DOOR デジタルリマスター版』
『DOOR デジタルリマスター版』 ©︎ エイジェント21ディレクターズ・カンパニー

飯塚克味のホラー道 第37回 『DOOR デジタルリマスター版』

 最近はすっかり見かけなくなってしまったが、ちょっと前の映画館では二本立て興行が当たり前だった。もちろん料金は通常料金のまま。分かりやすい例でいうと、『男はつらいよ』がそうだった。もちろんメインは寅さんで、併映作品は裏番組とも言われ、やや低予算であったり、若手監督の作品であったりしたものだ。しかしたまに併映作の方が出来がよく、そちらが評価されることも珍しくはなかった。今回、紹介する『DOOR』は筆者にとって、まさにその好例であった。

 本作が初めて公開されたのは1988年5月。世間がレンタルビデオの普及に伴うホラーブームに沸いていた時代だった。『死霊のはらわた』(1981)の大ヒットによって巻き起こったスプラッターブームで、日本でも特殊メイクを駆使した『死霊の罠』が製作され、その併映作だったのが『DOOR』だった。世界観の構築で洋画にはいま一歩及ばなかった『死霊の罠』に対して、『DOOR』は我々の日常に自然に入り込んで、上映中、見事に恐怖のどん底へと落としてくれたのである。

 話は至ってシンプル。仕事で忙しい夫と、まだまだ手のかかる幼い息子の面倒を見る日々を送る主婦・靖子。日々かかってくる売り込みの電話や、ドア1枚を挟んだセールスマンとのやり取りなど、ストレスも大きかった。そんなある日、一人のセールスマンが突然ドアを開け、資料を渡そうとする。慌てた靖子は力いっぱいドアを閉め、彼の手を挟んでしまう。悪いと思いつつ、突然の恐怖に動揺する靖子。一方、セールスマンの方は、それをきっかけに靖子に対してゆがんだ感情を持ち、恐怖のストーカーへと化していく。

 監督は昨年の新作『夜明けまでバス停で』(2022)が高く評価された高橋伴明。ピンク映画で鍛え抜かれた演出手腕で、低予算を感じさせない緊迫感を生み出している。主演は監督夫人でもある高橋惠子。筆者世代には『太陽にほえろ!』で松田優作扮するジーパン刑事の恋人だったシンコ役が忘れられないが、『高校生ブルース』(1970)や『おさな妻』(1970)をはじめとして、山のような映画、ドラマ、舞台などに出演してきた大女優だ。この頃が人生で一番綺麗だったのではないかと思えるほどの美貌で、恐怖に震える姿を演じるのだから、ファンにはたまらない。ストーカーになるセールスマン役には堤大二郎。ドアに手が挟まれたことで感情がブチ切れてしまうのだが、どこか辛い背景を感じさせずにはいられない複雑なキャラクターを好演している。

 今回は関係者の苦労により発見されたオリジナルネガから、撮影監督である佐々木原保志氏による監修で2Kレストアが行われたデジタルリマスターでの公開となる。筆者は試写と昨年の東京国際映画祭で2回、鑑賞しているが、正直、初公開時の印象よりはるかに高画質で、このような形で作品に接することができる今の観客が羨ましいと思えた程だ。つのごうじ氏による印象的なテーマ曲も、低音が効いていて、映画を大いに盛り上げてくれる。

 この主婦とストーカーが対決するスーパーバイオレンスホラー、今の観客に果たしてどう見えるのか、是非、感想を聞いてみたいものである。

主婦とストーカーが対決するスーパーバイオレンスホラー  『DOOR デジタルリマスター版』
『DOOR デジタルリマスター版』 ©︎ エイジェント21ディレクターズ・カンパニー

【作品情報】
DOOR デジタルリマスター版
2023年2月25日より 新宿 K's cinema にて独占ロードショー
配給:アウトサイド
©︎ エイジェント21ディレクターズ・カンパニー


関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


主婦とストーカーが対決するスーパーバイオレンスホラー  『DOOR デジタルリマスター版』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。

作品一覧