今回、紹介するのは『影なき陰獣』(1973)、『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』(1979)のセルジオ・マルティーノ監督が、1978年に放った巨大ワニ映画だ。ワニ映画の代表格として知られるルイス・ティーグ監督の『アリゲーター』(1980)よりも前に作られていることから、スティーヴン・スピルバーグ監督の『ジョーズ』(1975)の大ヒットにあやかって作られたのは一目瞭然。だがそれでも本作をただのパクリ映画にさせなかったのは、ひとえに作り手の観客を飽きさせないようにするための思いがあったためだろう。そんなワニ映画がついにホラー・マニアックスシリーズの第14期タイトルとしてBD化となった。
映画は冒頭、アマゾンの乱開発シーンから始まる。自然を破壊し、そこにリゾート地を作る白人の悪徳業者。実作業をするのは生活のために仕事を受けたと思われる原住民、壊されていく故郷を無念の思いで見続けるのもまた原住民。白人の横暴な振る舞いが分かりやすく描かれ、映画は本題に入っていく。リゾート施設の宣伝のため雇われたカメラマン、ダニエルとモデルの女性がヘリでやってくる。そこには原住民の生態に詳しい美しい女性マネージャー、アリスがいた。言うまでもなく、親密になっていく二人。だがそんな恋愛事情をよそに施設には危機が迫っていた。原住民に神と恐れられている巨大ワニの姿が目撃されたのだ。例によって施設のトップは現場の声を聞かず、人々が次々と血祭りにあげられていく。
映画の見せ場は、もちろんワニの襲撃シーンだが、堪忍袋の緒が切れた原住民がリゾートを訪れた観光客たちを槍で串刺しにする虐殺シーンも必見の大迫力だ。この辺はオーバーツーリズムを扱った最近のホラー映画にも通じるところがあるだろう。またワニの全身像が映るショットでは、明らかに人形だろうと思われ、いい感じのB級テイストが出ている。後半に行くに従って、昼と夜がごちゃまぜになっていく適当さもこの時代の映画らしくて、思わず微笑んでしまった。
ヒロインを演じるバーバラ・バックは本作のセルジオ・マルティーノ監督の『ドクター・モリスの島/フィッシュマン』でも主役に起用されている。ボンドガールを演じた『007/私を愛したスパイ』(1977)に比べると、どちらも地獄のような現場だったはずだが、監督によるとオファーを受けたのはイタリアにゆかりがあったからだろうとのこと。監督とはその後も交流があり、電話で会話することもあるという。本当にいい女優だ。
本編の撮影はフィルムの1コマを2分割して、撮影するテクニスコープで行われている。こうすることでフィルム代が通常の半分で済む節約方式だ。上映時には拡大してプリントするため、映画館では粒子が荒れることも多かったが、最近のデジタル技術のお陰か、本ブルーレイの画質はすこぶるいい。音質も割れることなく、聴きやすい仕上がりになっているので、是非大画面&大音響で楽しむべきだ。
特典では監督やスタッフのインタビューを収録。話は映画の裏話がメインだが、当時のイタリア映画で作られていたハリウッド映画の模倣についても言及があり、それぞれの考え方などを聞くことができて興味深い。監督がハリウッドの大作化により模倣作が求められず、衰退していったことを語るくだりでは、ちょっと寂しさも伝わってきた。
今後、これを超える内容のソフトが出ることも考えづらいので、気になる方は廃盤になる前にゲットしておくのが得策だろう。もし迷っているなら、即購入することをお勧めしたい。
関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】
飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【商品情報】
パニック・アリゲーター 悪魔の棲む沼-HD リマスター版-
Blu-ray発売中
価格(税込):5,500円
発売元:株式会社ニューライン
販売元:株式会社ハピネット・メディアマーケティング
(C)La Pratella 76 S.r.l.‒ Rome, Italy. All Rights reserved.