突出した完成度! エレヴェイテッド・ホラーの傑作 『MEN 同じ顔の男たち』レビュー

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

突出した完成度! エレヴェイテッド・ホラーの傑作 『MEN 同じ顔の男たち』レビュー
©️2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

飯塚克味のホラー道 第32回『MEN 同じ顔の男たち』

 春先にBD化された『スクリーム』(2022)の冒頭で悲劇に見舞われるジェナ・オルテガ扮するキャラクターが、登場人物の微妙な心理を描くエレヴェイテッド・ホラーが好きと語っていたのを覚えているだろうか?過度な育児への精神的プレッシャーが、魔物を生み出す『ババドック ~暗闇の魔物~』(2014)や、17世紀に自給自足の暮らしを行う家族の中で起きる悲劇を描いた『ウィッチ』(2015)、祖母の他界をきっかけに崩れていく家族のドラマ『ヘレディタリー/継承』(2018)など、どれもホラーというオブラートに包まれた現実的な恐怖を描いたエレヴェイテッド・ホラーの作品だが、今回、紹介する『MEN 同じ顔の男たち』もそうした系譜に入り、尚且つ突出した完成度を持つ作品となっている。

 監督は、監督デビュー作『エクス・マキナ』(2015)が世界中で絶賛されたアレックス・ガーランド。続く『アナイアレイション -全滅領域-』(2018)はナタリー・ポートマンら豪華スター共演だったにも拘わらず、期待された成績を残せなかったが、今回は見事にリベンジを果たしたと言えよう。彼の作品を観てきた人ならご存知だろうが、どの作品も自然を背景にした圧倒的な映像美が印象的となっている。今回も都会で始まり、すぐ舞台を田舎に移すのだが、地面を覆い尽くす緑、色とりどりの花々、トンネルでしたたる水滴など、その場の匂いが伝わってくるような映像が連続していく。そんな中で繰り広げられる、恐ろしい展開は正にガーランドの真骨頂と言えよう。

 物語は、至ってシンプル。夫を自殺とも事故とも言えぬ形で失った妻ハーパーが、傷ついた心を癒すため、田舎にある屋敷を借りて、しばらくそこで過ごそうとする。屋敷の管理人ジェフリーは、冗談は下手だが、色々親切で世話を焼いてくれる。憩いの時を過ごすハーパーだが、夫の死の直前、彼ともめていたことがトラウマとして焼き付いて離れない。そんな中、森を散歩していた彼女は廃トンネルで得体の知れない何者かに遭遇する。開けた場所にたどり着くと、全裸の男が立っているのが目に入る。それ以来、地元の教会へ行っても、バーへ行っても、男たちの無粋な言葉に傷つけられるハーパー。そして彼女は、どの男も同じ顔をしていることに気づく…。

 ハーパーを演じるのは『ワイルド・ローズ』(2018)のジェシー・バックリー。Netflixの『ロスト・ドーター』(2021)ではアカデミー賞助演女優賞にノミネートされた演技派だ。HBOドラマ『チェルノブイリ』(2019)にも出ていたので、ご記憶の人もいるだろう。本作では夫の死から立ち直れず、次第に心を病んでいく女性の心理を絶妙なタッチで演じている。ジェフリー役にはダニエル・クレイグの『007』シリーズにビル・タナー役で出演したロリー・キニア。舞台と映画やドラマなどで活躍してきただけに、本作ではいくつもの役を演じ分け、その存在感には誰もが圧倒されるだろう。

 男という存在が、いかに女性に不安を抱かせ、傷つけてきたか。自分は男性なので、キャリー・マリガンが主演した『プロミシング・ヤング・ウーマン』(2020)を観た時にも感じた、「男に生まれてきちゃってスミマセン」いう感覚に陥ってしまい、鑑賞後は鬱っぽい感じになってしまった。だがそんな自分の内面と向き合わせてくれるのも、映画ならではの体験と言えるのではないか?女性たちの感想も是非、聞いてみたいところだ。

 今回の映画を手がけたのは、このコーナーではおなじみのA24なのだが、クリエイターたちの才能を引き出し、どの作品も一定のレベル以上の作品に仕上げているのだから、さすがとしか言いようがない。A24と聞けば、安心して映画館に足を運べるという固定ファンも存在するのではないだろうか?

 とにもかくにも圧倒的な映像美の中で繰り広げられる、とんでもないクライマックス。予告編にある「永遠のトラウマになる」は決してオーバーではない。カップルで観るにはあまりにも精神的ダメージが大きいかもしれないが、それでも観ておいた方がいい傑作!それが『MEN 同じ顔の男たち』だ。これを観たら、アレックス・ガーランド監督の次回作に期待せずにはいられないだろう。

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突出した完成度! エレヴェイテッド・ホラーの傑作 『MEN 同じ顔の男たち』レビュー

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
MEN 同じ顔の男たち
2022年12月9日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©️2022 MEN FILM RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

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