「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024」の国内コンペティション長編部門で優秀賞を受賞した、村田陽奈監督の映画「折にふれて」が、2025年5月31日より劇場公開されることが決まった。
「折にふれて」は、京都芸術大学映画学科の卒業制作として9人の学生が中心になって製作された作品。もうすぐ20歳になり、一人暮らしをすることになった”ふみ”。おせっかいな父と、10歳年上の兄”むっちゃん”と3人で暮らしている。むっちゃんは10年間も部屋に閉じこもったままで一度も姿を見せなかった。徐々に透明な存在となっていくむっちゃんと、見て見ぬふりをする父。彼らを残していくもどかしさを抱えたふみは、ある日、日の沈まない不思議なまちに迷い込み、むっちゃんと邂逅(かいこう)する。幼い頃のようにたのしい時間を共にするふたり。息苦しい日常とむっちゃんと一緒に目いっぱい笑った夏の日々が、ふみの視界で交錯していく。
「いるのにいないような存在の家族を描く」ことから構想を得た物語で、刺繍(ししゅう)や扉を印象的に映し出し、画面サイズを自在に変化させ、見えない存在を音で表すなど、大胆かつ繊細な演出で主人公をとりまく2つの世界を表現している。メインスタッフ、キャストのほとんどは、今作が長編デビュー作となる。主演の本田朝希子をはじめとする若手俳優たちに加え、「福田村事件」などのベテラン俳優・水上竜士がチャーミングな父親役を演じている。
村田監督が2021年に制作し、「ショートショートフィルムフェスティバル&アジア 2022」のジャパン部門に入選した短編映画「水魚の交わり」も併映される。
ふみ役の本田朝希子らのコメントも公開された。コメントは以下の通り。
【コメント】
■本田朝希子/ふみ 役
私には、10 歳も歳が離れた兄弟も会社員の父もいるわけでもなく、母が亡くなっているわけでもありませんが、ただ、紛れもなく「ふみ」でいれた、そんな作品でした。何もできないもどかしさ、いらだち、周りの無関心さ、見せられない弱み、誰しも抱いたことがあるであろう痛みが垣間みえます。
“家族”という、時に苦しい鎖のようなもの、しかしそれは、各々が相手を想っているからこそでもあり、でも言葉にしないと縺れてしまう。でもその縺れを解き、不器用なりにも縫い合わせたいふみが愛おしいです。シーンの一つ一つが、ふみの心や想いや思い出に繋がっていて、きっと観客の方々の人生の記憶のどこかにも繋がる所があるのではないでしょうか。「大事な人を想う」常日頃四六時中それを意識しているわけではありませんが、観るたびに“折にふれて”それを思い出してもらえる、そんな作品になることを願っています。
■豊山紗希/むっちゃん 役
『折にふれて』は私たちの卒業制作として愛を込めて作った映画です。卒業し、社会に出て改めてこの作品に触れた時、ふみとむっちゃんの存在、日の沈まないまちの存在は、あたたかく心地よいと感じました。
友達や家族、環境など、縁が強いものは救いにもなるし、心を蝕んでくることもあると思います。自分自身を大切にするために、ひとりでいること、時間を無理に進めないことは必要なことがらで、そうして呼吸を整えた時、改めて向き合えると思うのです。この映画が、あなたが立ち返るきっかけになりますように。たくさんの人の心に届きますように。
■水上竜士/お父さん 役
主人公・ふみの家族は少し歪である。10 年間家族の誰にも顔を見せない兄、引きこもりの兄への罪滅ぼしのように妹にお節介を焼く父親、そしていつも笑い続けている仏壇の中の母。だがこうした家族の関係はおそらく有り触れた事だろう。むしろ円満な、悩みや苦しみを誰も抱えない家族を探し出す方が難しい時代かもしれない。主人公・ふみは実際に見た事のない兄と四六時中一緒にいて、浜辺で遊び、海の家で食事をして、生きていることを確かめ合う。全てふみの妄想の中なのだ。
だから兄は兄のようでありながら女性みたいな背格好だし、街は街のようでありながら異次元にでもいるかのようなのだ。しかし映画は妄想を行き来しながら現実世界とシンクロし、時間を前へ前へと押し進めていく。この映画には「不思議な世界観」という言葉で済ませられない執着がある。「生きること」への強いメッセージ性を感じずにはいられない。
■村田陽奈(脚本・監督)
ほんの 5 年前までは、わたしが映画を監督し、いろんな人に見てもらえることになるとは、想像もつきませんでした。大学で映画と出会い、こんなにも広く、深い世界があること、そしてそれを生み出すことの果てし無さを知りました。同じくそこで出会った同志たちとともに、ひたむきに、すべてを込めてつくりました。
社会人となり、目まぐるしく日々は過ぎ去り変わって行っても、あのときにしかなかったきらめきは確かに映されていました。10 年後にはもう目も当てられないくらい眩しく見えても、ふり返った時に心強い存在になるのだろうなと思います。前に進んでいくためにも、一人ひとりに手渡していくような想いです。新たな出会いのきっかけとなれば幸いです。
【作品情報】
折にふれて
2025年5月31日(土)~6月6日(金)まで新宿 K’s cinema にて一週間限定上映
配給:Hina Murata