2026年03月16日
提供:共同通信PRワイヤー
プレスリリース詳細 https://kyodonewsprwire.jp/release/202603165706
本プレスリリースは発表元が入力した原稿をそのまま掲載しております。詳細は上記URLを参照下さい。また、プレスリリースへのお問い合わせは発表元に直接お願いいたします。
心不全の早期治療介入として期待
2026年3月16日
岐阜大学
量子超核偏極(DNP)MRIを用いた心不全の早期診断法 心不全の早期治療介入として期待
【本研究のポイント】
・超偏極化MRIを活用し、心不全の早期の徴候を可視化する新規手法を開発
・心ミトコンドリアの機能低下や心筋細胞の変性が出現する前に、心不全の原因となる活性酸素を検出
・心不全の早期治療介入や新規治療薬の開発の一助として期待
東海国立大学機構 岐阜大学大学院医学系研究科 放射線医学分野の松尾政之教授、Abdelazim Elhelaly講師、同大医学研究科腫瘍病理学分野の原明教授、富田弘之准教授(COMIT、創発研究者)、市橋昂樹大学院生、同大医学研究科薬理病態学分野の兵藤文紀教授(COMIT、創発研究者)らの研究グループは、量子超核偏極MRI(in vivo DNP-MRI※1)を用い、ドキソルビシン※2投与心不全モデルマウスにおいて、心不全の原因の一つとされる活性酸素(ROS)※3に伴うレドックス状態の変化を、心機能低下や組織変化が現れる前の“超早期”の検出に成功しました。本成果は、心不全の早期発見や早期治療介入の支援に加え、ROSやミトコンドリアを標的とする新規治療法の開発への応用が期待されます。
心臓の状態を評価する検査としては、心エコーや冠動脈CTなどの画像検査、あるいは心筋細胞を顕微鏡で観察する心筋生検などがあります。しかし、これらは主に心機能や形態の変化を捉える方法であり、病態の初期段階では異常を検出しにくいという課題があります。高齢化に伴い心不全患者の増加が指摘される中、より早期に病態変化を捉える診断法の開発が求められています。
本研究では、活性酸素と反応する造影プローブを用いたin vivo DNP-MRIにより、心筋細胞の機能低下や形態変化が現れる前の段階で、心臓内のレドックス状態の変化を検出できるかを検討しました。その結果、ドキソルビシン投与30分後という極めて早い段階で、心ミトコンドリア※4由来の活性酸素の発生を示唆する信号変化を捉えました。一方で同時点では、ミトコンドリア機能低下や心筋細胞の明らかな形態変化は認められませんでした。これらの結果から、in vivo DNP-MRIは心機能低下や組織学的変化に先立って心臓内の活性酸素増加を可視化できる可能性が示され、心不全の“超早期徴候”を捉える新しいイメージングバイオマーカー※5としての応用が期待されます。
本研究は主に、日本学術振興会科学研究費補助金「超偏極MRIを用いた薬剤の心毒性評価方法の開発」(25K19414、19H03358)、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の創発的研究支援事業(JPMJFR2168、JPMJFR220W)、文部科学省の光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)(JPMXS0120330644)、の支援を受けて行った研究です。
【研究背景】
心不全は、心臓が全身の臓器に十分な血液を送り出せなくなる病気であり、高齢化に伴って世界的に患者数が増加しています。現在、心エコーやCT、心筋生検などが心臓の評価に用いられていますが、これらの多くは心臓の形態や動きの変化を捉える方法であり、症状が現れる前の早期段階で異常を検出することは必ずしも容易ではありません。心不全を早期に発見することは、患者の予後改善だけでなく医療費の抑制の観点からも重要です。近年、心不全の発症初期には、心筋細胞内のミトコンドリア機能の異常や活性酸素(Reactive Oxygen Species: ROS)の増加が関与することが明らかになってきています。本研究では、このような分子レベルの変化に着目し、in vivo DNP-MRIという磁気共鳴イメージング技術を用いて、生体内の心筋細胞で発生する活性酸素を非侵襲的に可視化することを試みました。もし、心機能の低下や組織の形態変化が現れるより前の段階で心筋内の活性酸素を検出できれば、心不全の超早期診断につながる新しい画像診断法の開発が期待されます。
【研究成果】
本研究では、抗がん剤ドキソルビシンによって心不全を誘導したマウスモデルを用い、in vivo DNP-MRIによって心臓内の活性酸素によるレドックス状態の変化を非侵襲的に可視化できるかを検証しました。その結果、ドキソルビシン投与後わずか30分という極めて早い段階で、心筋細胞のミトコンドリアから活性酸素が発生していることを確認しました。この変化は、ミトコンドリア機能の低下や、顕微鏡で確認できる心筋組織の形態変化が現れるよりも早く観察されました。
実際に、光学顕微鏡※6による観察では投与30分後の時点で明らかな組織学的変化は認められませんでした。一方で、電子顕微鏡※7ではミトコンドリアの軽度な形態変化が確認され、細胞内のより微細なレベルではすでに変化が始まっていることが示唆されました。
これらの結果から、in vivo DNP-MRIを用いることで、心機能の低下や組織学的な変化が現れるよりも前に、心筋内の活性酸素の増加を可視化できる可能性が示されました。活性酸素の増加やミトコンドリア機能異常は心不全の初期段階に深く関与することが知られており、本研究成果は心不全の超早期診断を可能にする新しい画像診断技術の開発につながることが期待されます。
【今後の展開】
本研究では、in vivo DNP-MRIにより、心筋内の活性酸素の増加(レドックス変動として)を非侵襲的に可視化でき、心不全の超早期の徴候を捉えるイメージングバイオマーカーとする方法を示すことができました。本研究の成果は、従来の生体外での実験とは対照的に生体内で活性酸素を可視化したことから、活性酸素やミトコンドリアを標的とした新規治療法の開発にも貢献すると考えられます。
【用語解説】
※1 In vivo DNP-MRI(生体内動的核偏極-磁気共鳴画像化法)
活性酸素と反応する造影剤によって、主に体内の水分子の水素原子(1H)由来の増幅した核スピン情報を元に、体内の臓器の解剖学的情報を可視化する量子超核偏極MRI技術。
※2 ドキソルビシン
抗がん剤の一種で、副作用として心臓の働きが低下することが知られている。マウスを用いた研究では、心不全のモデルを作るために用いられる。
※3 活性酸素
反応性の高い酸素原子を持つ分子の総称。過剰に産生されると細胞を傷つけ、心不全などの疾患に関与すると考えられている。
※4 ミトコンドリア
細胞内に存在し、活性酸素の産生に関与する。機能異常は心不全などの疾患と関連すると考えられている。
※5 イメージングバイオマーカー
病気の情報を画像化し治療効果や治療戦略の指標とすること。
※6 光学顕微鏡
一般的な顕微鏡。細胞の形態を評価するために広く用いられている。
※7 電子顕微鏡
電子線を用いた顕微鏡。光学顕微鏡では確認できない微細な構造を観察することができる。
※8 レドックスマップ
In vivo DNP-MRIの画像を元に作られる。活性酸素の存在や位置情報を画像に落とし込んだもの。
【論文情報】
雑誌名:Redox biology
論文タイトル:In Vivo Dynamic Nuclear Polarization Magnetic Resonance Imaging Reveals Cardiac Mitochondrial Redox Imbalance as an Early Indicator of Heart Failure
著者:Koki Ichihash, Fuminori Hyodo, Abdelazim Elsayed Elhelaly, Hiroyuki Tomita, Shoya Shiromizu, Keita Fujimoto, Hirohiko Imai, Yoshifumi Noda, Hiroki Kato, Akira Hara, and Masayuki Matsuo