フェデリコ・フェリーニの第3話が圧巻! これぞオムニバスホラーの原点! 『世にも怪奇な物語』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

フェデリコ・フェリーニの第3話が圧巻! これぞオムニバスホラーの原点! 『世にも怪奇な物語』
『世にも怪奇な物語<4Kリマスター版>』 BD¥6,380(税抜¥5,800)/DVD¥4,180(税抜¥3,800)発売中 発売・販売:キングレコード

飯塚克味のホラー道 第77回『世にも怪奇な物語』

 最近は洋画ではあまり見かけなくなったが、日本の映画やドラマでは量産され続けているオムニバスホラー。30分程度の短篇を組み合わせ、一本の映画として公開するタイプのものだ。スティーヴン・スピルバーグ監督ら、当時の気鋭が揃った『トワイライトゾーン/超次元の体験』(1983)やジョージ・A・ロメロ監督の『クリープショー』(1982)などは今でも人気が高い。

 しかしそんなオムニバスホラーの中でも、映画としてずば抜けた評価を獲得しているのが、今回紹介する『世にも怪奇な物語』(1967)だ。フジテレビで毎年放送されている『世にも奇妙な物語』(1990~)が、本作に敬意を表してのタイトルなのは言うまでもない。

 原作はエドガー・アラン・ポー。1809年に生まれ、多くの作品を残した著名な作家だ。短編も多く、映画に適しているため多くの映画化作品が作られている。中でもロジャー・コーマンが監督し、ヴィンセント・プライスが主演した一連の作品は、多くの人に観てもらいたいほど素晴らしい出来となっている。

 本作で監督を担当したのは、今でも巨匠と評価されている3人。フランスからはロジェ・ヴァディムとルイ・マル。イタリアからはフェデリコ・フェリーニが名を連ねている。この3人、ホラーにはほとんど縁がなく、本作以前も本作以降も、それらしい作品は目に付かない。だが、才能というものはジャンルに関係なく発揮されることを、本作は証明している。

 まずは第1話の『黒馬の哭(な)く館』。ロジェ・ヴァディム監督はフランス映画界きってのプレイボーイを言われ、本作では当時、婚姻関係にあったジェーン・フォンダをヒロインに残酷極まりない話を展開させている。彼女が演じるのは広大な敷地を持つ貴族。やりたい放題の彼女は、召使の命すらおもちゃのように扱っている。そんな彼女は、ある日、従弟関係にある貴族と出会うが、カッコ悪いところを見られてしまい、逆恨みが高じるあまり、彼の厩舎に火を放ち、殺してしまう。この従弟を、実の弟であるピーター・フォンダが演じているのが、何ともエキゾチックで、微妙な近親相関的な匂いを漂わせている。

 第2話『影を殺した男』のルイ・マル監督は、『死刑台のエレベーター』(1957)や『地下鉄のザジ』(1960)などで知られる天才肌。本作ではアラン・ドロンに1人2役を演じさせ、残酷な行動を平気で行うウィリアム・ウィルソンと、様々な場面に出現しては彼を止める、もう一人の自分を演じている。クライマックスのカードゲームのシーンでは、最近、リバイバルで人気のブリジット・バルドーも登場している。

フェデリコ・フェリーニの第3話が圧巻! これぞオムニバスホラーの原点! 『世にも怪奇な物語』
『世にも怪奇な物語』 第三話「悪魔の首飾り」 ©1967- TF1 DROITS AUDIOVISUELS - PRODUZIONI EUROPEE ASSOCIATES S.A.S

 そして圧巻なのが最後のフェリーニが監督した『悪魔の首飾り』だ。ローマにやって来たイギリス人俳優が、一通り仕事を終えたら、ギャラ代わりにもらったフェラーリで夜の街を疾走する。もう冒頭からフェリーニの才能が溢れまくっていて圧巻。オレンジ色の空港内の映像に、盟友ニーノ・ロータが作曲した明るさと不気味さが見事に調和した楽曲が流れる。一度耳にしたら、忘れようがないほど画面と一致しているのが分かるはずだ。主演のテレンス・スタンプは、最近『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)でも怪しげな男を演じていたが、本作は彼の長いキャリアでも最高の一本と言えるだろう。申し訳ないけど、前の2本は、本作を観てしまったら前座としか思えないほど、フェリーニの作品は別次元だ。

 最後は今回の4Kリマスター版について触れたいと思う。かなりの人が2017年にリリースされたニューライン版のブルーレイを所有しているかと思う。画質に関して言うと、ニューライン版はイギリスにあったネガから、今回の4Kリマスター版はイタリアにあったインターポジもしくは上映プリントから起こしたのではないかと思う。ニューライン版はすこぶる画がシャープで、発色も鮮やか。いわゆる今風の画質だ。それに対し4Kリマスター版は全体的に柔らかい画調で、色もかなり抑えたものになっている。映画館で観た時の印象はこちらが近いと思う。どちらがいいかということよりも、これほど違った画質で、この名作を楽しめることを日本のファンは喜ぶべきだと思うのだが、いかがだろう?

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フェデリコ・フェリーニの第3話が圧巻! これぞオムニバスホラーの原点! 『世にも怪奇な物語』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【商品情報】
『世にも怪奇な物語<4Kリマスター版>』
BD¥6,380(税抜¥5,800)/DVD¥4,180(税抜¥3,800)発売中
発売・販売:キングレコード

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