プーの暴走が痛快 原作の著作権切れによって実現 『プー あくまのくまさん』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

プーの暴走が痛快 原作の著作権切れによって実現 『プー あくまのくまさん』

飯塚克味のホラー道 第48回 『プー あくまのくまさん』

 世界中で愛されてきた『くまのプーさん』。原作はA・A・ミルンの児童小説で、多くはディズニーのアニメ版を通して知ったはずだ。自分も大好きだし、ユアン・マクレガーがクリストファー・ロビンを演じた、実写版『プーと大人になった僕』も大のお気に入りだ。そんな名作だが、原作の著作権が2022年1月で切れ、パブリックドメインになったということで、自由な解釈の元、作品作りが実現するようになり、本作が完成した。

 子ども時代、楽しく過ごしていたクリストファー・ロビンと、くまのプーさん、そしてピグレットなどおなじみの面々。だがクリストファー・ロビンが成長し、100エーカーの森を離れたことで、悲劇が始まる。本作では飢えに苦しみ、人間を嫌うようになり、やがて復讐の鬼となった『あくまのくまさん』の暴走が、痛快なまでに描かれる。

 本作を完成に導いたのはイギリス人のリース・フレイク=ウォーターフィールド。キャリアはそれほどでもないが、『エイリアン・インシデント エリア51壊滅』(2022)、『ツイスター 地球史上最大の怪物』(2023)など、いわゆるB級映画を数多く手掛けていて、監督のみならず、製作、脚本、特殊効果など何でもござれの映画請負人と言えるだろう。そんな一昔前のイタリア人的な商魂を持った彼が、権利切れの名作に目を付けたのも、ごく自然なことなのだ。

 内容に関しては映画を観る時のお楽しみにしておきたいのだが、冒頭のシークエンスが明けて、雨が降る中、死んだ仲間の墓や、空っぽになったハチミツの空き瓶が放置されているくだりは、なかなかのホラーテイストで、霧の使い方も効果的だ。プーの殺し方も趣向が凝らされていて、時間が過ぎるのを忘れるほど楽しませてくれる。

 このページにアクセスするような方は、ホラーの楽しみ方を知っている方だと思うが、まさにそんなファン向けの作品に仕上がっているのだ。最近、観客もかなり分かってきた人が増えているようで、先日公開された『テリファー 終わらない惨劇』(2022)の上映館でも、絶叫というより、笑い声が絶えなかったそうで、やり過ぎ感を目的に、映画館にやって来る若い層が着実に増えてきている。トビー・フーパー監督は『悪魔のいけにえ』(1974)をコメディとして作ったそうなのだが、世間的に全くそうは受け止めてもらえず、『悪魔のいけにえ2』(1986)ではよりコメディ色を強めに出したと聞く。もし彼が生きていたら、日本のホラーファンに喝采を送ってくれたのではないか。

 冒頭のアニメから快調なテンポで突っ走り、あっという間に終わってしまう本作。特殊メイクや、撮影技術、音響面など、十分映画館で観る価値はある。とにかくできるだけ早く観に行って、同様の感性を持つホラーファンと共に楽しむべきだ。すでに続編製作も決まっているので、そう遠くない未来に、また“あくまのくまさん”と再会できるはず。自分も続きを観るのが本当に待ち遠しい。

関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


プーの暴走が痛快 原作の著作権切れによって実現 『プー あくまのくまさん』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
プー あくまのくまさん
2023年6月23日 (金) 新宿ピカデリー 他 全国ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム
© 2023 ITN DISTRIBUTION, INC. ALL RIGHTS RESERVED.

作品一覧