「マニアック・ドライバー」 無駄を一切排除した狂った内容のジャーロ作品 【飯塚克味のホラー道】

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著者名:飯塚 克味

「マニアック・ドライバー」 無駄を一切排除した狂った内容のジャーロ作品 【飯塚克味のホラー道】

 

飯塚克味のホラー道 第10回「マニアック・ドライバー」

 このサイトを読まれている方は光武蔵人監督をご存じだろうか?アメリカをベースに活動していて、2004年に密室劇のサスペンス『モンスターズ』で長編デビューを果たしてからは、主演も兼ねた『サムライ・アベンジャー/復讐剣盲狼』(2009年)、女暗殺者が壮絶な復讐を果たそうとする『女体銃 ガン・ウーマン/GUN WOMAN』(2013年)、スピード感満載のアクション映画『KARATE KILL/カラテ・キル』(2016年)まで、これぞファンタスティックな映画を作り続けて、通の映画ファンをうならせ続けている。全ての映画に共通するのは、観客を徹底的に楽しませようとする娯楽映画への強い思いと、70~80年代に量産されたプログラム・ピクチャー的な味わいである。

 そんな光武監督が次回作に選んだジャンルは、かつてイタリアで隆盛を誇ったジャーロだ。ジャーロとは、独自の様式美に彩られ、殺人やエロスなどを描く内容で、マリオ・バーヴァやダリオ・アルジェントの作品が有名。最近ではダリオ・アルジェント監督の諸作に強く影響を受けたジェームズ・ワン監督が『マリグナント 狂暴な悪夢』で、殺害シーンや犯人の姿を、ジャーロを思わせるタッチで描いていた。

 本作の主人公はタクシードライバーのフジナガ。嫌でもロバート・デ・ニーロ主演の名作を思い出してしまうだろうが、フジナガも相当、イってしまっている。妻を狂人に殺害されたフジナガは、世の中に対する復讐として、自分が運転するタクシーに乗ってきた女性を、同じように殺し、自身も自殺しようと思い続けている。だが、ある日、妻にそっくりの女性が乗り込んできたことで、大きく運命が変わっていく…。

 けばけばしいまでの原色の世界で繰り広げられる狂気の世界。見た後は、あって絶対良かったと思うこと間違いなしの女優陣の裸・裸・裸。いやらしさより健康的な象徴に感じられるのだが、そんな彼女たちが血祭りにあげられる流れにもシビれまくる。ひとつだけ具体例を挙げていいなら、冒頭、女性客が襲われ、住宅街を逃げるくだりで、走りやすくなろうと、固苦しい上着を脱ぎ棄て、スカートを腰までたくり上げ、どんどん裸に近い格好で走って逃げていく場面!なんかちょっとおかしいぞと、つい笑いそうになったところで、ドーン!ホント素晴らしい流れで、編集にもセンスがあふれている!

 劇中に流れる川口泰広の音楽も80年代的な匂いが漂っていて、サントラが欲しくなるほどカッコいい!「昔はこういう音楽が流れる映画がたくさんあったのに」と思ってしまう世代もいるはず。本作、実は昨年オンラインで開催されたゆうばり国際ファンタスティック映画祭でも配信されたのだが、その時の音はステレオだった。だが、今回、劇場での上映のために5.1chサラウンドにリミックスされている。音楽の響きと共に、狂気の光武ワールドに存分に浸ることができるだろう。

 あと特筆しておきたいのが、上映時間が75分と非常にコンパクトに収まっていること。最近のハリウッド大作はどれもこれも無駄に長い作品ばかりで、お尻が痛くなってかなわいのだが、本作は無駄を一切排除して、一気に走り抜けるような印象を与えてくれる。このことは他の映画監督たちも大いに見習ってもらいたいところだ。

 レイトショーにぴったりな狂った内容のジャーロ作品。是非、年明けの映画館で堪能してもらいたい。

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「マニアック・ドライバー」 無駄を一切排除した狂った内容のジャーロ作品 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
マニアック・ドライバー
2022年1月7日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷レイトショー公開
配給:マクザム
(c)MMXXI Akari Pictures

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