M・ナイト・シャマラン監督の映画はクセになる。「どうせ大したオチもないんだろう」と思いつつ、なぜか毎回見る気にさせてくれるのだ。そんな彼が22年前の1999年に放った『シックス・センス』は間違いなく傑作だった。幽霊が見えるという少年を担当することになる精神科医のドラマで、今見ても色褪せてない。だが、それ以降の作品、特に予算が増大傾向にあった『エアベンダー』『アフターアース』あたりは、かなりがっかりさせられた。それでも見続けようという気になるのは、騙される快感を一度味わってしまったからだ。『シックス・センス』のラストで、余りにも意表を突くどんでん返し。映画館でなければ「えー、そうだったの!」と思わず声を上げてしまいそうに、当時、誰もがなったのではないだろうか。“あの時の興奮をもう一度”と毎回期待してしまうのだ。
大作がコケ続け、一度はヒット街道から見放されたシャマラン監
6月ごろから映画館で流れる予告編を見て、散々取り上げられた設定と思いつつ、それでも見たいという思いに駆られたのは筆者だけではないだろう。プライベートビーチに集まった数組の家族。だがそのビーチではあっという間に時間が過ぎ去り、人々は老化してしまう、脱出しようにも意識を失ってしまう、出るに出られないトラップのようなビーチだったのだ。簡単に言えばビーチ全体が浦島太郎の玉手箱なのだが、予告編を見てしまったら、その時点でシャマランの罠にはまってしまったようなもの。本編の導入部では画面のどこかに脱出のヒントは落ちてないかと画面中をチェックしているし、ビーチにたどり着いてからは主人公家族の運命を茫然と見守るだけ。監督が思い描いたように、観客は心を揺り動かされ続けるのである。
冒頭にM・ナイト・シャマラン自身が登場し、映画館での鑑賞体験の素晴らしさを語るイントロが付いているのもユニーク。これは監督本人の気持ちでもあるのだろうが、その後、ヒッチコックのように自分がカメオ出演する場面に気づいてもらいたいという下心が込められていると思う。「あれ?あの人、さっき出てきた監督さんじゃない?」と思ったら、あなたはもう既にシャマランの掌の上で踊らされている。ビーチに向かう家族と一緒の車に乗って、地獄のような体験を味わうことになるのだ。
最後に、オチが全てと言ってもいいシャマラン映画だが、本作にもしっかりオチは付いている。ビーチで家族が全員死んで「はいっ、おしまい」みたいな投げやりな作品にしていないところにも好感が持てる。そのオチが気に入るかどうかは別としても、満腹感は味わえるのは間違いない。期待に胸を膨らませて映画館に足を運んでもらいたい。
飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
■作品情報
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配給:東宝東和
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