2025年9月5日より劇場公開される、第77回カンヌ国際映画祭の「ある視点」部門に正式出品された、ヨルゴス・ランティモス監督の公私に渡るパートナーとしても知られる新鋭アリアン・ラベド監督作「九月と七月の姉妹」から、本編映像の一部が公開された。
本編映像では、姉妹という閉ざされた関係の中で浮かび上がる、いびつで強烈な支配の様子を映し出している。姉は、「私が誘拐されたら、身代わりになってくれる?」「私が手足を失ったら、あんたも切る?」と質問をするのと同時に、「何かあったら電話1本でかけつけるから」と同級生からの理不尽な暴力におびえる妹に優しい言葉を添える。やがてその言葉は、妹の心の奥底に絡みつき、解けない呪いのようにじわじわと侵食していく。
「九月と七月の姉妹」で描かれるのは、生まれたのはわずか10カ月違いで、いつも一心同体の姉妹であるセプテンバーとジュライの物語。我の強い姉と内気な妹は、支配関係にありながら、お互い以外に誰も必要としないほど強い絆で結ばれている。しかし、学校でのある事件をきっかけに、シングルマザーのシーラと姉妹は、アイルランドの海辺近くにある亡き父の家へと引っ越すことになる。新しい生活のなかで、次第にセプテンバーとの関係が変化していることに気づきはじめるジュライ。ただの戯れだったはずの命令ゲームは緊張感を増していき、外界と隔絶された家の中には不穏な気配が満ちていく。
監督を務めたのは俳優としても活躍し、ヨルゴス・ランティモス監督の公私に渡るパートナーとしても知られる新鋭のアリアン・ラベド。2010年、ヨルゴス・ランティモス監督が制作・出演した「アッテンバーグ」(アティナ・ラヘル・ツァンガリ監督)で映画デビューを果たし、ヴェネツィア映画祭とアンジェ・プレミエール・プラン映画祭の最優秀女優賞を受賞。本作でランティモス監督と出会い、2013年に結婚した。その後、ランティモス監督「ロブスター」にも出演している。2014年には、「欲望の航路」でロカルノ映画祭最優秀女優賞を受賞し、セザール賞の新人女優賞にもノミネートされた。
一足先に本作を鑑賞した著名人によるコメントも公開された。コメントは以下の通り。
■石山蓮華(電線愛好家・文筆家・俳優)
姉妹のゲームがいつのまにか執着になっていく。
この不穏なシスターフッドは危ういだけではない普遍性がある。
大人になるために心の奥底にしまい込んだ女の子たちの名前、
私たちだけの共通言語と恐怖をもう一度なぞりたくなっている。
■かとうさおり(NINE STORIES主宰)
クローズドな関係性と空間の中で、ある事件をきっかけに、更にぼやけていく2人の姉妹の境界線。時間軸もあやふやとなり、スリリングで不穏な空気感に目が離せなくなる。原作と併せての鑑賞を推奨!
■SYO(物書き)
他者の悪意、淀んだ母娘関係、歪な姉妹愛。
支配的で狂っている。でも、独りではない。
絶望か希望か――貴方は答えを出せるのか。
僕は未だ衝撃で心が強張り、動けずにいる。
■嶽本野ばら(作家)
貴方は知るでしょう。自分がすでに傷つき、修復不可能な状態であることを。
それでも貴方は痛みと欠損から眼を逸さぬ決意をするのではないでしょうか?
彼女達の宿命に共鳴するから。これは寓話ではなく今を生きなければならない少女、
つまり貴方の記録なのだと思います。原作とこの映画が同じ核を持つ双子のような姉妹であるが如くに……。
■中村桃子(画家・イラストレーター)
学校にいても、家に帰っても、男の子にデートに誘われても、
姉妹が作り上げた歪で頑丈なテラリウムにはなかなかだれも侵入できない。
それでも、いつか強い風が吹いて家も車もぜんぶ吹っ飛んだら、
どこへでも飛んでいけそうなジュライに希望を感じました。
■野中モモ(ライター・翻訳者)
ときに親子以上に密接になる姉妹の結びつき。
歪で極端な事例に見えるけれど、ありふれた母子家庭サバイバルの話とも言える。
その危ういバランスを成り立たせる映像と音による語りに個性と技を感じます。
英国の曇り空、思春期の鬱屈と相性が良すぎ。
■福永紋那(OH! MY BOOKS店主)
‘怖カワイイ’って感じの姉妹に終始ヒヤヒヤしたんですが、
途中お母さんとのうそみたいに明るくてイケてるダンスシーンがあったのが
めちゃくちゃ最高で、気づくと彼女たち3人家族の不思議な魅力にかなり夢中になっていました。
■ブン(古書店員)
自分の心と身体が少しずつ乖離していて、支配されていくような感覚。暴力的で束縛のある姉妹間の奇妙な結びつき。でも全てが嫌悪や恐怖で溢れているわけではなくて、愛に限りなく近いものもある。それは絆なのか共依存なのか。なんだか、高熱の時に見る夢のような時間を過ごしました。
■水野しず(コンセプトクリエイター、ポップ思想家)
秩序の網にむりや裂け目を作って入り込んでくる侵入者がいたらサスペンスだけど、ある秩序の渦中であたりまえのようにいたりいなくなったりする人間はホラーだ。思春期の少女にとってはこの世の大半がこんなおそろしさに満ちたホラーみたいな側面がある。いろんな人間が自己都合で近すぎる距離に出現したり突如消失したりする。そういうこわさって、どうしたらわかってもらえるんだろうか。
■渡辺祐真(作家・書評家)
本映画の原作が目指していたのは、叙述トリックと言葉遊び、そして館を舞台にしたゴシックミステリーだった。いずれも小説ならではの技巧の賜物だ。ところが映画では、家具や物音を軸に据えることで、原作がやろうとしていたことを全く違うやり方で達成してしまった。ただの焼き直しではない、優れた映画化とはこのようなものだ。
■Lina Sun Park(アーティスト)
日常の儚さや私的な空間、そして彼女たちだけの儀式を、静かで心に残る方法で描き出していたことに深く心を動かされました。
【作品情報】
九月と七月の姉妹
2025年9月5日(金) 渋谷ホワイトシネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほか全国ロードショー
© Sackville Film and Television Productions Limited / MFP GmbH / CryBaby Limited, British Broadcasting Corporation, ZDF/arte 2024