「ラストナイト・イン・ソーホー」 エドガー・ライト待望の新作は新タイプの映画 【飯塚克味のホラー道】

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

「ラストナイト・イン・ソーホー」 エドガー・ライト待望の新作は新タイプの映画 【飯塚克味のホラー道】

 

飯塚克味のホラー道 第9回「ラストナイト・イン・ソーホー」

 今回、紹介する『ラストナイト・イン・ソーホー』の監督はエドガー・ライト。最近、どんどんメジャーになっているが、規模が大きくなっても初心を失うことのない信頼できる作り手の一人だ。注目を浴びることになったのは、盟友サイモン・ペッグと組んだ『ショーン・オブ・ザ・デッド』、『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン!』、『ワールズ・エンド 酔っぱらいが世界を救う!』。どれも語り口が絶妙で、時代を超えて愛されていくレベルの作品で、驚かされた人も多いだろう。監督でなくても製作総指揮や脚本を担当した『アントマン』のように個性を発揮することもできる。そして前作の『ベイビー・ドライバー』では、音楽のセンスとアップテンポな編集を見事に融合させ、新感覚のカーアクションを提示してくれた。主役を演じたアンセル・エルゴートをブレイクさせることにも成功し、誰もがエドガー・ライトの次回作を待ち望むようになった。そんな彼の新作はタイムリープホラーと言う全く新しいタイプの映画だった。

 地方から大都会のロンドン、ソーホーに出てきて、ファッションデザイナーを夢見るエロイーズ。彼女は母親の霊を感じ取ることができる、不思議な能力があった。そんな彼女が暮らすことになった古いアパートで眠りに就くと、夢の中で意識が、彼女が憧れている60年代に飛び、そこで歌手を夢見るサンディの意識に同化する。だが何度かそんなことを繰り返すうちに、サンディはとんでもない悲劇に遭ってしまう。これは現実なのか、夢なのか?察しのいい人はお気づきかもしれないが、これは『時をかける少女』+『君の名は。』でもあるし、『呪怨』+『事故物件 恐い間取り』の要素も含んだ作品なのである。

 予算はあるので、60年代のロンドンを再現したセットは豪華そのものだし、衣装もエロイーズがデザインするものも含め、目を奪うものばかり。ミステリアスな展開と、懐かしのゴージャスな風景がミックスし、怒涛の後半に流れていくのだが、後半以降の展開は、サプライズの連続。是非大画面で観るべきものになっている。

 主人公のエロイーズを演じるのはトーマシン・マッケンジー。最近では『ジョジョ・ラビット』でスカーレット・ヨハンソンの家に隠れているユダヤ人の少女を演じたり、『オールド』で急成長して親を驚かせる娘を演じたりしている有望株だ。60年代の少女サンディ役はブレイク中のアニャ・テイラー=ジョイ。M・ナイト・シャマラン監督の『スプリット』やNetflixのドラマ『クイーンズ・ギャンビット』で、一度見たら忘れようがない強い印象を残してきている。オールドファンにはテレンス・スタンプが出演しているのも嬉しいところ。ウィリアム・ワイラー監督の『コレクター』(1965)では偏執的な殺人鬼を、『スーパーマンⅡ/冒険篇』(1981)ではゾッド将軍という映画史に残るキャラクターを作り上げた彼が、今回どんな役を演じているかも注目してほしい。

 美しい現在と過去のロンドンをスクリーンに映し出した撮影監督は、韓国出身のチョン・ジョンフン。パク・チャヌク監督の一連の作品でコンビを組んだ後、アメリカに移り、『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)などで手腕を発揮している。今回はソーホーのネオンなど、美しいショットが連発するので、映像クオリティでは最高レベルが提供してくれるドルビーシネマがお近くに合ったら、是非、そこでの鑑賞もお勧めだ。

 何を作っても外れのない器用なエドガー・ライト監督。次回作は何とアーノルド・シュワルツェネッガーが主演した『バトルランナー』(1987)のリメイクだとか。次も気になるところだが、まずは『ラストナイト・イン・ソーホー』で、その巧みな演出術を堪能してもらいたい!

関連記事:2021年劇場公開 最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


「ラストナイト・イン・ソーホー」 エドガー・ライト待望の新作は新タイプの映画 【飯塚克味のホラー道】

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
ラストナイト・イン・ソーホー
2021年12月10日(金)TOHO シネマズ日比谷、渋谷シネクイントほか全国公開
配給:パルコ ユニバーサル映画
© 2021 FOCUS FEATURES LLC. ALL RIGHTS RESERVED
R-15

作品一覧