昨年、全米のハロウィンシーズンを制覇した大ヒットホラー 『リング』の影響も? 『SMILE/スマイル』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

昨年、全米のハロウィンシーズンを制覇した大ヒットホラー 『リング』の影響も? 『SMILE/スマイル』

飯塚克味のホラー道 第50回 『SMILE/スマイル』

 全米で昨年9月30日に公開され、最初の週末だけで2260万ドル、その後も数字を落とすことなく、ホラー映画が乱立するハロウィンシーズンに1億590万ドルのトップ興収を上げた大ヒット作。同時期には『ハロウィン THE END』(2022)など、本命視されていた作品を打ち破ってのことだけに、映画界には衝撃が走った。突然、現れたこの映画は一体、どういうものなのか?何がそんなに観客の心をつかんだのか?

 監督はこれがデビュー作となるパーカー・フィン。それ以前は短編2本を作った、紛れもない新人監督だ。『SMILE/スマイル』の製作スタジオであるパラマウントの目に留まったのは2020年にSXSW(サウスバイサウスウエスト)映画祭に参加した11分の短編『ローラは眠らない』(2019)。映画祭自体がパンデミックで開催されなかったが、審査は行われ審査員特別賞を受賞。ネットで観た多くの人の間で話題騒然になり、『ローラは眠らない』をベースにした長編作品への製作へとつながっていったのだ。予算は1700万ドルと低予算だが、世界興収ではなんと2億1740万ドルの大ヒットを記録した。

 そんな『SMILE/スマイル』の話は、こうだ。救急医療病棟で仕事をするセラピスト、コッター医師が、ある女性患者ローラと接見する。ローラは目の前で大学教授の自殺を目撃してしまい、それ以来、異常になっていた。彼女は「見えないものが見える。人のように見えるけど、人でないものが」と言い残し、自ら微笑みながら首を切って自殺してしまう。患者の突然の自殺にショックを受けたコッターは、それ以来、徐々に精神を病んでいき、異常な言動や行動が目立つようになってしまう。ローラの元カレで刑事のジョエルの協力を得て、大学教授の過去を調べていくと、彼もまた自殺の目撃者であったことが判る。自殺は連鎖しているのか?そして自殺の目撃者となってしまったコッターもまた自殺してしまうのか?

 話をざっと聞き、Jホラーの代名詞と言うべき『リング』(1998)の存在を思い浮かべない人はいないだろう。パーカー・フィン監督は過去の様々なホラー映画へのリスペクトを表明しており、恐怖が連鎖する『リング』からも間違いなく影響を受けたはずだ。また、一人の女性が心を狂わせていく展開はマリオ・バーヴァ監督の『ザ・ショック』(1976)にも通じるところがある。窓を開けたら壁だったというショットが重なっていることからも、影響は否定できないだろう。様々な名作から換骨奪胎して、自分なりのテイストに変えていく、こうした監督の力量には、是非、日本の若手映画監督たちも見習ってもらいたいところだ。

 主演はソシー・ベーコン。実は彼女、ケヴィン・ベーコンとキーラ・セジウィックの間にできた娘である。テレビシリーズ『13の理由』(2017~)などで着々とキャリアを積んできて、ようやくその才能が開花した。いわゆるスター俳優ではなく、彼女を選んだ理由は演技力と監督は語っている。共演者も「気持ちの切り替えが早く、役柄をより深くしていくんだ」とその演技力を絶賛しているので、是非とも注視していただきたい。

 クライマックスのクリーチャーのデザインなど、様々な特殊メイクを担当しているのは、長いキャリアを誇るトム・ウッドラフ・Jr。特典のメイキングでは彼の仕事ぶりもしっかりチェックすることができる。劇中、不気味な“それ”がコットー医師に迫るカットが『エイリアン3』(1992)の象徴的なカットにそっくりだったりするのだが、監督なりのオマージュだったのかもしれない。

 その他にも特典映像には、不気味な音楽を特殊な楽器で作っていく映像や、監督の解説が付いた削除シーン、そして監督による音声解説など盛りだくさん。映画を楽しんだ後には、じっくりチェックしてほしい。

 日本での劇場公開が実現しなかった点は、パラマウント映画の日本での配給を請け負う東和ピクチャーズに是非、今後改めてもらいたいところだが、中身のあるブルーレイが発売されたことは是非評価したい。是非、部屋を暗めにして、ボリュームは大きめにして鑑賞してもらいたい。

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昨年、全米のハロウィンシーズンを制覇した大ヒットホラー 『リング』の影響も? 『SMILE/スマイル』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


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