『E.T.』とともに大ヒット アマゾンで取材クルーが殺害される“やらせドキュメンタリー” 『食人族』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

『E.T.』とともに大ヒット アマゾンで取材クルーが殺害される“やらせドキュメンタリー” 『食人族』

飯塚克味のホラー道 第44回 『食人族』

 ついに4Kリマスター無修正完全版が公開される『食人族』。若い映画ファンの中には、タイトルだけは聞いたことあるという方も多いのではないだろうか。それもそのはず。この映画は幾度となくDVDやブルーレイがリリースされてきたが、その度にすぐ廃盤になり、観ようとしても配信にアップされる訳でもないし、レンタル店に在庫があるとも限らない、まさに幻の映画でもあるのだ。

 映画としては“やらせドキュメンタリー”そのもので、アマゾン奥地に取材に行ったクルーの白骨遺体と撮影フィルムが見つかり、それをテレビ局の上層部の人たちが試写をするというスタイルで話は進む。クルーがアマゾンの原住民に対して、極悪非道な行いをし、やがて反乱を起こした原住民によって、クルーは殺害されるというものだ。いかにも本物っぽい雰囲気で映画全体が進行することから、当時は観客の半分くらいが現実だと信じ込んでいたのではないだろうか?

 そんな『食人族』が日本で初公開されたのは、1983年1月15日。成人の日だが、当時は映画に成人指定などなかった。小中学生でも窓口で「こども1枚」といえば、チケットが買えた時代だ。タイミングとしては正月第2弾の公開時期で、正月の大作ラッシュで疲れ切った配給会社が春休みまでのつなぎで公開する映画が多かった。当時、配給を行った20世紀フォックス映画もヒットは期待していなかったはずだ。

 だがここで思いがけないことが起きる。正月映画として記録的な大ヒットをしていた『E.T.』の本編前に『食人族』の予告編が流れていたのだ。今でこそ、上映する映画がファミリー向きなら、そうした予告編をかけるのが常識だが、何と言っても無法地帯の80年代。同じ系列で次に上映するという理由だけで、どんなに残虐な映像があっても、お構いなしに予告編をくっつけていたのだ。TVCMも煽るだけ煽った作りで、正月明けのお茶の間に殴り込みをかけるような印象だった。

 そしていざ公開が始まると、瞬く間に大勢の観客が映画館に駆け付け、場内はあふれんばかりの熱気に包まれる。自分が観に行ったのは2週間経った1月30日の日曜、今はヒカリエになっている渋谷の東急文化会館地下にあった、東急レックスだ。当時は定員400席だが、通路まで人でいっぱいになるほどの混雑ぶりだった。因みに歌舞伎町にあった巨大映画館、新宿ミラノ座(約1500席)では『E.T.』が上映中で、地下の新宿東急(約1000席)で『食人族』が上映され、どちらにも大勢の観客が押し寄せたことで、劇場スタッフが大声で「こっちは『E.T.』の列でーす!」「こっちは『食人族』の列でーす」と絶叫しまくっていたそうなので、これもまた今では考えられないことと言えよう。

 それほど話題になった『食人族』なので、ソフトも手を替え品を替え、いろんなメーカーからリリースされてきた。2001年の初DVD化ではスパイクからは似たような映画をまとめた“食人パック”として、2003年のアルティメット・コレクションでは美麗なリマスター映像をマスターに使用、2008年には“てんこ盛り食人愛好家盤”として、日本語吹替版も作られた。そして2015年には“製作35周年記念HDリマスター究極版”と銘打ってブルーレイも登場したが、どこかのクレーマーが、劇中、カメを解体する場面(後にちゃんと食べるのだが)が動物虐待にあたると指摘して、大手通販サイトが取り扱いを止めるなんてことも起きた。いずれも現在は入手しにくくなっている。もし今回の上映が終わり、ソフトが出るようなことがあったら、間違いなく即ゲットすべきとだけ言っておこう。

 最後に今回の4Kリマスター無修正完全版についてだが、筆者は昨年、イギリスでリリースされた4K UHDで自室のホームシアターで観ている。間違いなく『食人族』史上、最高の高画質だ。こういう映画に画質云々は関係ないだろうという意見もごもっともだが、せっかく観るなら、いい画質で観た方がいいに決まっている。もちろん今と40年前では映画館で観ることの意義は大きく変わっているが、それでも一度は映画館で観ておいた方がいい映画はあるのだということを、分かってもらえるはずだ。

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『E.T.』とともに大ヒット アマゾンで取材クルーが殺害される“やらせドキュメンタリー” 『食人族』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
食人族 4k リマスター無修正完全版
2023年5月5日 (金) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿 他 全国ロードショー
配給:エクストリーム
© F.D.Cinematografica S.r.l.1980

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