残酷過ぎて笑っちゃう場面も アレックス・デ・ラ・イグレシア監督最新作 『ベネシアフレニア』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

残酷過ぎて笑っちゃう場面も アレックス・デ・ラ・イグレシア監督最新作 『ベネシアフレニア』

飯塚克味のホラー道 第42回 『ベネシアフレニア』

 本作の監督がスペインのアレックス・デ・ラ・イグレシアと聞いて、狂喜乱舞する人がいたら、相当なホラーマニアと言えるだろう。1993年に『ハイル・ミュタンテ!/電撃XX作戦』で長編デビューして以来、コンスタンスに作品を作り続け、『気狂いピエロの決闘』(2010)では、ヴェネチア国際映画祭の銀獅子賞と脚本賞の受賞を果たしている。2014年には『スガラムルディの魔女』(2013)と『刺さった男』(2012)が同時公開され、日本に来日プロモーションも果たしている。特徴としては残酷なホラー描写で観客の関心を引き付けるのだが、同時に奇妙なユーモアも交えて、通のファンをくすぐりに来る、そんな演出スタイルである。本作にも残酷過ぎて笑っちゃう場面が用意されているのだが、場内で小声で笑っている人がいても、どうか寛大な気持ちで許してあげて欲しい。

 今回、イグレシア監督が目を付けたのは、イタリアのヴェネチアに観光にやって来たスペインの若者グループが、マスクを被った謎の殺人鬼に襲われるという設定。ここ数年、コロナで観光産業が落ち込んでいただけに、最近の反動はすさまじいもの。どこもかしこも観光客だらけで、ごった返している。もちろんインバウンド需要は必要不可欠なもので、それで生計を立てている人も大勢いる。だがその一方で、あまりに多すぎる観光客に迷惑している人々がいるのも事実だ。日本でも公道でのカート走行が問題になったり、京都で一般宅を観光施設と勘違いした外国人たちが押し掛け迷惑を受けているなど、様々な問題が起きている。

 水の都ヴェネチアでも同じような観光公害が話題になり、運河の汚染、公共交通機関の混雑、歴史的文化遺産の劣化など、様々な問題点が指摘されている。ホラー映画の定石である、見知らぬ土地にやって来た若者たちがひどい目に遭う、という設定をヴェネチアに持ってきたのは、映画祭で賞をもらったアレックス監督の恩返しだったのかもしれない。カーニバルで街中が仮装している人々でごった返しているという設定も上手く活かされている。

 本作、冒頭で、いきなり観光客のカップルが惨殺されるところから始まるのだが、時間帯が真っ昼間なことに驚く。白昼堂々、大勢の目の前で殺人が行われるのである。もちろん周囲に観光客がたくさんいるのだが、彼らの反応がちょっとすごい。どんなものかは映画館で確認してほしい。またメインの若者グループも、遊びに来ているから当然と言えば当然なのだが、テンション上がりまくりで、やりたい放題。気になることがあると、料金も払わずバーを飛び出し、怪しげな誘いにもホイホイ応じてしまう。

 スペインの人が見たら、また違った感覚になるのだろうが、日本人としてはこんな迷惑な連中、映画と言うフィクションの世界なら、殺されても当然と言う気も起きてくる。面白いのが、どの若者が殺されていくのか、全く読めないところだ。行方不明になっても、酔っていたのではと警察にもなかなか真剣に取り合ってもらえないし、迷惑そうな視線を向ける地元の人たちの視線も冷ややかだ。人はいるのに、孤立する状況がうまく作り出され、怒涛のクライマックスへと流れ込んでいく。

 またジャンル系を知り尽くしている監督だけに、名作群へのオマージュも散りばめられている。若者たちが、ヴェネチアに到着してすぐ使う水上タクシーに、冒頭の殺人鬼が直前に乗り込んでくるのだが、その場面は『悪魔のいけにえ』(1974)で車に奇妙な男が乗り込んでくる場面と酷似している。チケットを手渡すところは『デモンズ』(1985)かもしれない。また後半に、役に立つのか全く分からない途中参加の友人がやってくるくだりは、『シャイニング』(1980)で黒人がやって来る場面を彷彿とさせる。

 その辺はマニアならではの楽しみ方だと思うが、そんなことを抜きにしても、最後までノンストップで突っ切る展開の速さは、必見と言えよう。後半になるとダレていく映画が多いが、本作に関してはその心配は無用。ラストも綺麗に幕切れしてくれるので、満足度も高いはずだ。

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残酷過ぎて笑っちゃう場面も アレックス・デ・ラ・イグレシア監督最新作 『ベネシアフレニア』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
べネシアフレニア
2023年4月21日(金) 新宿バルト9 ほか 全国ロードショー
配給:クロックワークス
🄫 2021POKEEPSIE FILMS S.L - THE FEAR COLLECTION I A.I.E

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