昔の映画館には、よく2本立てをやっているところがあって、大体が本命の映画と、そうでない作品の組み合わせになっていたものだ。だがたまに、本命ではない作品の方が抜群によくできていて、映画の面白さをそこで知るようなことが少なからずあったものだ。今回、紹介する『レンフィールド』は、正にそんな作品で、意外な面白さに満ちている、隠れた傑作と言えよう。
タイトルになっているレンフィールドとは、吸血鬼ドラキュラの召使、というか使いっぱしりで、ほとんど奴隷レベルと言っていいポジションのキャラクターだ。これを現代のパワハラに当てはめて、ホラーコメディに仕上げてみたのが本作の基本設定になっている。監督は『LEGO®ムービー』（2014）、『レゴバットマン ザ・ムービー』（2017）で抜群のギャグセンスを披露したクリス・マッケイ。Amazonプライム・ビデオで配信された『トゥモロー・ウォー』（2021）のような大作も手掛けているが、やはり自由度の高い仕事の方が好みなのか、本作ではやり過ぎなくらいの過剰な描写満載で、分かっている観客を楽しませてくれる。
映画は、アメリカではおなじみの、輪になって自身のエピソードを告白するグループカウンセリングの場面から始まる。レンフィールドが自身の境遇を涙ながらに語る場面からして、抜群に面白い。アドバイスを受けたレンフィールドは、ドラキュラから独立し、新たな生活を始めるが、以前に血液を採取するため、地元マフィアを殺したことが原因で、警察を交えた抗争に巻き込まれてしまう。
レンフィールドを演じるのは、ニコラス・ホルト。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』（2015）や『X-MEN』シリーズ（2011～2019）のようなメジャー大作から『トールキン 旅のはじまり』（2019）や『ザ・メニュー』（2022）のような小品まで幅広く活躍しているホープだ。ドラキュラ役にはなんとニコラス・ケイジ。『マッシブ・タレント』（2022）など、最近、再びブレイクしている名優が、映画史上もっとも有名な吸血鬼役を何とも嬉しそうに演じている。これに絡んでくる女性警官役が実写にアニメに大活躍中のオークワフィナなのだから、つまらない訳がない。
頓珍漢なコメディっぽい展開かと思ったら、派手なアクションになり、血まみれ描写も手抜きなくド派手に描かれる。VFXもクオリティが高く、エンタメレベルが非常に高いのが誰にとっても分かるはずだ。上映時間が93分という短さも、気軽に見るには打ってつけ。
善人が無残に殺されてしまう場面があったせいか、本作は日本の劇場では未公開。いわゆるビデオスルーという形だが、ブルーレイは非常に高画質高音質で、きちんとしたホームシアターシステムを持っていたら、映画館以上の感動を得られるはずだ。特に後半、ドラキュラから逃げ出し、女性警官と話していたレンフィールドの耳にドラキュラの声が轟く場面の音響は、リアチャンネルを効果的に使った抜群の仕上がりになっている。サウンドバーでもかなりの効果を発揮すると思う。
最後の最後まで、ユニークなアイデアが盛り込まれ、ドキドキハラハラしながら、笑いもいっぱいという充実した時間を約束してくれる、この一本。どうせ大したことないだろう、と思っても構わないが、是非、気が向いたら観てほしい。きっと映画と言うエンタメの奥深さに気づくことになるだろう。
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飯塚克味（いいづかかつみ）
番組ディレクター・映画＆DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』（毎週土曜日放送）の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA！』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD＆動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター６ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。
【作品情報】
『レンフィールド』
ブルーレイ＋DVD: 5,280 円 (税込み)
発売元: NBCユニバーサル・エンターテイメント
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