これぞ発掘良品 イタリアンホラーの隠れた傑作2作が同時公開 『笑む窓のある家』『ZEDER/死霊の復活祭』

映画スクエア

飯塚克味のホラー道 第140回『笑む窓のある家』『ZEDER/死霊の復活祭』

これぞ発掘良品 イタリアンホラーの隠れた傑作2作が同時公開 『笑む窓のある家』『ZEDER/死霊の復活祭』
1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

 イタリアのホラーと言えば、マリオ・バーヴァ、ダリオ・アルジェント、ルチオ・フルチの三大巨匠がまず思い浮かぶだろう。マニアックな人であれば、『食人族』(1980)のルッジェロ・デオダートや、『人喰族』(1981)のウンベルト・レンツィ、『影なき淫獣』のセルジオ・マルチーノなどを推すファンもいると思う。だが、こうした並びに忘れてはいけない監督が、昨今、再評価されている。今年、87歳になったプピ・アヴァティ監督だ。フェデリコ・フェリーニ監督の『8 1/2』を観て、映画監督を志したプピ・アヴァティは、1970年に監督デビューし、1976年に『笑む窓のある家』を発表。アートとサイコホラーを融合したジャーロと言える本作は、最近になってイーライ・ロス監督や、BFI(英国映画協会)に再評価され、彼の出身地であるボローニャで4K修復されている。ボローニャは、映画の復元スタジオを持ち、そこで映画祭が行われている街として有名である。

 その『笑む窓のある家』の内容は、こんな感じだ。北イタリアの田舎町に、教会の壁画を元通りに戻すため、友人の推薦によって呼ばれた絵画修復師ステファノが、地元出身で修復する作品の画家レニャーニに憑りつかれ、彼の過去を探っていく内に、殺人事件に巻き込まれていくというものだ。

 この映画、冒頭のセピアめいた色調の殺害シーンはルチオ・フルチの『ビヨンド』を思わせ、ステファノが友人の殺人を窓の下から目撃する場面がダリオ・アルジェントの『サスペリアPART2』に似ているなど、後年、生まれる傑作ホラーの元ネタと思しき名シーンが連発している。教会で働く下働きの男や、ステファノが暮らす家の2階にいる寝たきり老婆など、不気味で怪しい人物も次々に登場し、アルジェント作品のような派手な音楽は流れなくても緊迫感いっぱいに物語が進行していく。クライマックスでは、どう考えてもアルジェントの魔女三部作に影響を与えたのではないかという衝撃シーンも用意され、これがなぜこれまで日本未公開だったのか首をかしげるばかりだ。

 4Kレストアされた画質は、やや色調のトーンが落ちていて時代を感じさせるが、細部の表現はしっかりしていて、闇夜の黒もしっかり沈んでいる。映画館の暗闇で観たら、効果抜群のはずだ。というか本作が作られた当時は、映画は映画館で観るものだったはずで、そのための画作りをしていたはず。レストアされた高画質を、映画館で楽しんでもらいたい。

これぞ発掘良品 イタリアンホラーの隠れた傑作2作が同時公開 『笑む窓のある家』『ZEDER/死霊の復活祭』
1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL

 そして、もう一本、合わせて観てもらいたいのが、プピ監督が1983年に手がけた『ZEDER/死霊の復活祭』だ。こちらは恋人から古いタイプライターを送られた主人公が、たまたまそこに残っていたインクリボンに書いてあった文章を読んだことで、Kゾーンという場所では死者が蘇ることを知り、調査し始めるという話になっている。こちらも話が進むにつれ、どんどん恐怖指数が増大し、ラストはとんでもないことになってしまう。

 こちらは日本でも『ゼダー 死霊の復活祭』でビデオ化されているので、当時、観た人もいるかもしれない。だがこちらも2K画質でしっかりリマスターされて、文句のないクオリティになっている。時代的にはホラーブームが到来する直前のタイミングだったことでもあり、いわゆるゾンビの定義に当てはまらない死者が登場することから、『ZOMBIO 死霊のしたたり』(1985)などに影響を与えたのではないだろうか。

 この作品で主演を務めたガブリエレ・ラヴィアはアルジェントの『サスペリアPART2』(1975)、『インフェルノ』(1980)、『スリープレス』(2001)にも出演しているので、覚えている方も多いはずだ。

 まだまだ、我々が見逃している名作、傑作があることを、改めて知らせてくれる今回の上映。是非とも映画館に駆け付け、スクリーンで映画を観る楽しみを実感してもらいたい。

関連記事:最新おすすめホラー映画はこれだ! 【飯塚克味のホラー道】


これぞ発掘良品 イタリアンホラーの隠れた傑作2作が同時公開 『笑む窓のある家』『ZEDER/死霊の復活祭』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、WOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』の演出を担当した。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
笑む窓のある家 4K修復版
2025年11月21日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
配給:インターフィルム
© 1976 SND (M6 Group) and ACEK SRL


【作品情報】
ZEDER/死霊の復活祭
2025年11月23日(日)よりシネマート新宿ほか緊急限定公開
配給:インターフィルム
© 1976 SND (M6 Group) and ACEK SR

作品一覧