2025年9月5日より劇場公開される、ノーベル文学賞受賞作家カズオ・イシグロのデビュー作の映画化作「遠い山なみの光」から、本編映像の一部が公開された。
本編映像の舞台は、1950年代の長崎。せみしぐれのなか、新聞を読みながら食事をとる夫・二郎に、悦子がお盆をそっと差し出すシーンから始まる。新聞には「幼児絞殺 三人目」と陰惨な事件の記事。二郎はいら立ちを隠せず、「正気の沙汰じゃなか」と吐き捨てる。戦争で右手の指を失くし、茶碗を持つことも不自由な二郎は、悦子の差し出す漬物に「しょっぱすぎじゃなかか」と言いながらも、子を宿す妻・悦子をいたわり「君だけの子じゃなかけん」と優しく声をかける。悦子は、二郎に代わってネクタイを締めてやり、会社へと送り出す。朝の何気ないひとときに、二郎の傷痍軍人として生きていく思い、家族を思いやる心、そして自分の心にふたをしながらかいがいしく夫の世話をする悦子の抑圧された心情が描き出されている。
二郎が出かけ、1人になった家で押し入れからそっと取り出したのは、悦子が集めた美しい品々を収めたバスケット。窓辺に腰かけ、風鈴の音に耳を澄ましながら一つひとつを愛おしそうに眺める。それらは彼女を、いまの暮らしから憧れの「遠いどこか」へと誘う夢のかけらだった。ふと、下の団地から住民の声が聞こえる。視線を上げた先で目にしたのは、河岸のバラック小屋の前で、さきほどまで見つめていた雑誌から抜け出したようなモダンな装いの女性が、米兵を自宅へ迎え入れている様子だった。
「遠い山なみの光」は、1950年代の長崎と1980年代のイギリスを生きる3人の女たちの、知られざる真実を描いた感動のヒューマンミステリー。長崎で原爆を経験した悦子。日本人の母とイギリス人の父を持つニキは、大学を中退して作家を目指し、長崎で戦争を経験した後イギリスへ渡った母・悦子の半生を綴りたいと考える。娘に乞われ、口を閉ざしてきた過去の記憶を語り始める悦子。それは30年前、戦後間もない長崎で暮らしていた頃に出会った、佐知子という女性とその幼い娘と過ごしたひと夏の思い出だった。だが、ニキは次第に母が語る物語に違和感を感じ始める。
カズオ・イシグロの長編デビュー作を映画化したのは、「ある男」などの石川慶監督。長崎時代の悦子を広瀬すず、佐知子を二階堂ふみ、イギリス時代の悦子を吉田羊が演じ、ニキ役はオーディションで選ばれたカミラ・アイコが務める。さらに、悦子の夫に松下洸平、その父親に三浦友和が顔をそろえるほか、日本パートには柴田理恵、渡辺大知、鈴木碧桜(子役)らが出演している。
【作品情報】
遠い山なみの光
2025年9月5日(金)TOHOシネマズ 日比谷 他 全国ロードショー
配給:ギャガ
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