アリ・アスターも惚れ込んだ 世界で最もダークなストップモーション・アニメ 『オオカミの家』『骨』

映画スクエア

著者名:飯塚 克味

アリ・アスターも惚れ込んだ 世界で最もダークなストップモーション・アニメ 『オオカミの家』『骨』

飯塚克味のホラー道 第57回 『オオカミの家』『骨』

 1933年の『キング・コング』の時代から、観客を魅了し続けてきたストップモーション・アニメ。人形を1コマずつ動かしては撮影し、続けてみると動いて見える技法だ。実写との融合では『アルゴ探検隊の大冒険』(1963)などのレイ・ハリーハウゼンが有名だ。アニメーション作品は数多く作られており、『ウォレスとグルミット』(1989~)のアードマンや、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993)に代表されるティム・バートン関連作、『コララインとボタンの魔女』(2009)のライカ・エンタテインメントなどが知られているところだろう。一方、『ストリート・オブ・クロコダイル』(1983~1988)のブラザーズ・クエイや、『アリス』(1988)のヤン・シュヴァンクマイエルのように、作家性を前面に出した作品群も高い人気を保っている。

 そんなコマ撮りアニメの世界に新たな新星が現れた。南米チリのクリストバル・レオンとホアキン・コシーニャのアーティスト・デュオだ。『オオカミの家』(2018)は彼らが手掛けた初の長編作品となる。共にチリ・カトリック大学を卒業し、2007年から活動を開始。ラテンアメリカの伝統文化に深く根ざした宗教的象徴や魔術的儀式を、実験映画として新しい解釈で表現しているとのこと。本作は美術館、文化センター、アートギャラリーなど、さまざまな公共の場所で上映されることを目的とした作品で、2018年の第68回ベルリン国際映画祭でプレミア上映されカリガリ映画賞を受賞、アヌシー国際アニメーション映画祭で審査員賞を受賞と、世界中で高い評価を得てきている。

 内容は、チリ南部のドイツ人集落でブタを逃がしてしまったマリアが、厳しいバツに耐えられず、集落を逃げ出し、逃げ込んだ一軒家で2匹の子ブタと出会い、悪夢的な体験を重ねていくというものだ。とにかくビジュアルのインパクトが大きすぎて、一度見ただけでは内容が頭に入って来ないほど。そのため、繰り返し何度も鑑賞したくなる欲求が湧き上がってくる不思議な魅力に満ちた作品になっている。

 冒頭では昔懐かしい荒い画質のビデオ映像で始まり、コマ撮り映像になってからは、人形のみならず、壁に描いた絵や、他の物体もどんどん動く対象になっていき、しかもそれがワンカットで表現されていく。一度入ったら抜け出せないほどの映像体験を味わわせてくれるのだ。監督たちは本作の制作にあたり、「これはカメラによる絵画である」「色は象徴的に使う」「カメラはコマとコマの間で決して止まることはない」など10の約束事を自らに課し、それに忠実に作品を作り上げている点も素晴らしい。

 もちろん本コーナーで取り上げるくらいなので、ホラーテイストも存分に盛り込まれ、ダークファンタジーとしての魅力にも十分に満ちている。先に挙げたブラザーズ・クエイやヤン・シュヴァンクマイエルの作品がお気に入りなら、間違いなくハマってしまうだろう。かなり中毒性の高い作品になっているので、覚悟して劇場に足を運んでもらいたい。

 同時上映される『骨』(2021)も短編ながら見逃せない一本になっている。『オオカミの家』に惚れ込んだ『ミッドサマー』(2019)のアリ・アスター監督が製作総指揮を務め、第78回ヴェネチア国際映画祭でオリゾンティ部門最優秀短編映画賞を受賞している。内容は2023年、美術館建設に伴う調査で発見された古いフィルムを修復したという前置きで始まり、少女が人間の骨を使って、悪魔的な儀式を行う映像が映っていたというフェイク設定が何とも言えない、敢えて古風な感じに仕上げたホラー作品だ。甦ったバラバラの死体を組み合わせて人間にしていく様子など、スクリーミング・マッド・ジョージの『ソサエティー』(1989)などを思わせ、思わず見入ってしまった。

 こうした作品が映画館で観られるのは、かなり貴重な機会と言えよう。鑑賞後、もし気に入ったなら何度でも足を運んでほしい。映画館によってはリピーター割引も実施しているところもある。実は筆者も視聴が3回までのオンライン試写で観たのだが、制限いっぱいの3回までしっかり作品を観てしまったほどだ。今後、間違いなくカルト化し、10年、20年経った頃に「あの時観た」と自慢できるレベルの作品なんて、そうはない。是非、ご自身の眼で、新たな才能の誕生を確認してほしい。

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アリ・アスターも惚れ込んだ 世界で最もダークなストップモーション・アニメ 『オオカミの家』『骨』

飯塚克味(いいづかかつみ)
番組ディレクター・映画&DVDライター
1985年、大学1年生の時に出会った東京国際ファンタスティック映画祭に感化され、2回目からは記録ビデオスタッフとして映画祭に参加。その後、ドキュメンタリー制作会社勤務などを経て、現在はWOWOWの『最新映画情報 週刊Hollywood Express』(毎週土曜日放送)の演出を担当する。またホームシアター愛好家でもあり、映画ソフトの紹介記事も多数執筆。『週刊SPA!』ではDVDの特典紹介を担当していた。現在は『DVD&動画配信でーた』に毎月執筆中。TBSラジオの『アフター6ジャンクション』にも不定期で出演し、お勧めの映像ソフトの紹介をしている。


【作品情報】
オオカミの家
2023年8月19日より、 渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ザジフィルムズ
© Diluvio & Globo Rojo Films, 2018


2023年8月19日より、 渋谷シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー
配給:ザジフィルムズ
© Pista B & Diluvio, 2023

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